第9話

「オークってクセェから嫌いなんだよなぁ」

「ゴブリンも大概だろ」

「いやいや、オークはくらべものになんねぇって!」


 そんなシドとレントの言い合いが聞こえる。今日はオークの巣を潰すということで、朝からシドは文句の言いっぱなしだ。


「あ、そうだキュウ。ぜっっっっってぇに側を離れるなよ」

「ああ、絶対だ」


 はいはい。もうオークってそうなのね。私も自分の純潔に興味はないけど、オークに散らされるのは、なんか分からんけど絶対にやだ。


 というかゴブリンもそんな感じのイメージあるし、スライムもそんな感じのイメージあるし、これは私が汚れているのか異世界が汚れているのか。……どっちもどっちで引き分けってことで。そんな感じのイメージはもちろん性的な意味だよ。


 そんなにアレならお留守番でもしてようかと思ったがそれはできないらしい。レントが言うには、私は魔獣扱いだから、町中にいるときは単独行動ができない。召喚獣は基本連れ歩き禁止。召喚したっきり帰せない、帰ってくれないなど、やむを得ない事情がある場合は必ず召喚主が側にいること。これはいくら勇者だからと言っても守らなければいけないお国の決まりだ。


「あと、キュウは弱すぎんだよ。ほっとくとまた奴隷として捕まるだろ」


 それは大いにあり得る。魔力関係の拘束具は効かないけど、シンプルな手枷足枷とか外せないし。何ならそんなの使わなくても、大人の腕一本で抑え込まれる自信しかないね。


「それに死なないというなら、ついてくるのが一番安全だ」


 ぐう正論。……って別に私は行きたくないって一言も言ってないが? なんで私が説得させられてるみたいな立場になってんだ。


「でもできれば連れてきたくねぇな」

「オークだからな……しかし、これはギルドからの指名依頼だ。断れん。連れて行きたくないが」


 めんどくせぇこいつら。


「守って」


 結局お二人さんが私を守れば解決ってことで、全力で姫プを楽しむとしよう。キャピキャピキュルルン。


「……なんかぞっとしたわ」

「……任せろ……!」


 は? シド? は?


 そんなこんなありながら、冒険の準備を済ませた私たちはオークの住処へと向かった。



 以下、オークの巣を攻略中に起きた事件まとめ。


「ばっ……! キュウ離れるなって!」

「無理無理嫌嫌」

「キュウを放せ……! クソ豚野郎……!」


「お前……また!」

「死ぬ死ぬ無理無理」

「動くな……! クソ豚野郎……!」


「なあキュウ、わざとか?」

「無理破滅終わり終末閉廷無理」

「死ね、豚」


 いやね? シドとレントを殺しに来るオーク半分、私をこっそり攫おうとするオーク半分って感じでね? 


 オークに比べるとゴブリンは、とりあえず殺すって感じで来てくれたからまだましだね。オークは厄介だ。私の乙女がピンチピンチ。


 オークキングを倒して何とか巣の制圧に成功。ついでにオークに捕まっていた女性を解放。町まで送り届けて依頼達成。


「ほら、お嬢ちゃんこっちおいで……怖かったね。もう大丈夫だよ」


 あ、すみません。私被害者じゃないです。確かに全裸にマントだけどこれが正装なんで。はい、お構いなく。


 てか、オークに捕まっている女性たちは、それでもちゃんと服と言えるものを着ていた。もちろんエッチなことはされてたみたいだけど、待遇は最悪というほどでもなかったらしい。なんでや。より私が惨めになるじゃないか!


 ちょっと話がこじれはしたけど、何とかレントが自分の召喚獣だと言ってその場は事なきを得た。なお、勇者レントは幼女を全裸で連れまわす変態という噂がこれで大きく広まるのだが、本人はあまり気にしていない様子。やっぱこの人悪い奴じゃないけどおかしいよ。頭が。


「なあ、服着ねぇのか」

「は?」

「こわ。いや、なんでお前ずっと全裸でいるんだと思って」


 こっちが聞きたいわこの馬鹿! なんで私はいつまでも全裸にマントとかいう変態チックな恰好で過ごさなきゃならんのだ。確かに全裸でもいいとは言ったけど、見方によっては全裸マントは全裸よりも変態度高い可能性ある。人に変態と思われるのはちょっと話が変わってくる。


「魔獣に服を着せるのか?」


 あー、レントは飼い犬に服を着せるの反対派? いるよねーそういう人。私もどっちかっていうとそっち派だわ。……まあこれが自分のこととなると鞍替えの検討もやぶさかではない。結局自分が大事。人権くれ。


「まあどのみち、この町にはキュウに合う服が売ってない。それ専用の獣人の服屋行く必要がある」


 なんでもええやろがい。確かに羽が邪魔だけど、多少は我慢するぞ。


「それに……興奮する」


 おいゴミ勇者。貴様のくだらん性癖に私を付き合わせるな。


「まあ、キュウを見て欲情する物好きはこのクズ勇者以外にそういねぇだろうけどよ」

「ゴミクズ」

「仕方ないことだ。すまん」


 何が仕方ないことだ。この勇者オークよりひでぇ。てか、一目惚れで私を買ったり、同室チャレンジしたり、今の発言だったり、レントは変なところでブレーキぶっ壊れるな? 人付き合いが不器用とか、そういうのとはまた違った危なっかしさがあるぞ? お巡りさんチャレンジするか? 多分私勝つぞ?


 とまあ、ゴミクズ勇者のせいで私の全裸はしばらく決定。まあ何度も言うけど全裸は最悪どうでもいい。マントあるし。一番怖いのはこれで評判が悪くなって色々スムーズにいかなくなることだ。矢面に立たされているレントが気にしてないのは普通に怖い。


 そして酒場。仕事が終わったら飲む。どこの世界も共通だよね。


「なんにせよ、これで俺も銅ランクだ。つっても、こっからがなげぇんだけどよ。試験もめんどくせぇし」

「昇格試験は金ランクくらいまでなら問題ないだろう」

「流石だねぇ。やっぱ分かるもんなんだな。前やってた時がちょうど金で頭打ちだったんだ。今回はもっといけりゃあいいけどな」

「いければいいじゃない。いくんだ」

「へいへい、分かってるよ……てか、そろそろ拠点変えた方がよくねぇか? 昨日の夜、お客さんが来てたぜ?」

「……キュウに危険が及ぶのは避けたい」


 うわびっくりした。急にこっちに話を振るな。何の話? 「なんにせよ」くらいから聞いてなかったわ。ごめん。


「憲兵に突き出したらまぁ文句言われたぜ? 『逆だろ!』って。憲兵のやつも不服そうな顔してたしな」

「諸々の流れはギルドで発表されている。来ているのはどうせ暇な正義馬鹿だ」


 えーと、分からんけどシドの話かな? これまで情報から、シドは何か大罪を犯して奴隷になっていた可能性が高い。それが解放されたってんで正義マンが鉄槌下しにやってきたみたいな? 返り討ちにされたみたいだけど。


「来てんのはどうせまともな人間じゃねぇよ。ついででキュウを攫われでもしたら面倒だろ?」

「あてはあるのか?」

「三日後に東の獣人の国へ、船が出るらしいぜ。護衛を申し出れば行けんじゃね? 俺だけならともかく、お前もいるんだし」

「……考えておこう」

「おう、そっちの方が魔獣もつえーしな」


 今度はちゃんと聞いてたよ。船に乗って獣人国へ行くって話だよね。つまり私の服を買いに行くって話で合ってる?


「明日は飛竜討伐だ。今日はこの辺にしておこう」

「んま、それもそうだな。流石に舐めてかかれる相手じゃねえ」

「十分休息をとれ。キュウ。行くぞ」


 あ、部屋戻るのね。了解了解。


 レントと二人で部屋に戻って、一つのベットに二人でイン。って、あれれ? レントさん?


「すまない。明日は少し強敵だ。万が一にも負けはないが、逃がすと面倒なことになる。今日はここで寝かせてくれ」


 うわ、それを言われちゃ無理とは言えない。……てか、ほんとにコイツ、私と同じ布団で寝れんのか?


 私がそう思った数秒後、レントは寝息を立て始めた。……フリではないな。マジかよ。


 え、一目惚れした相手とベットをともにしても、こんなもんか? 色々考えてた私が馬鹿みたいじゃん。


 考えれば考えるだけ何とも言えない気持ちになっていくので、私は考えるのをやめた。


 ほんと、レントのアクセルとブレーキが分からない。

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