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「なるほど」
話を聞き終えた悠莉がひとりでに呟いた。
隣に居た麻央はどこか俯き加減で、私の方を見ている。
「み、みんな。私は大丈夫だから––––」
「嘘つかない。正直、どう思ったの?」
「……」
今度は悠莉の鋭い表情が私を刺した。
思わず、押し黙ってしまう。
そりゃあ––––
「私は本当に大丈夫。ありがとう…ただ」
教室を見回す。
私たちには有り余るほど広いこの教室で。
文芸部は、確かに存在しているんだ。
「––––文芸部をバカにするやつは許せない。
…見返してやる」
その途端、みんなの顔から笑みがこぼれて。
「そうこなくっちゃあ!」
遥花の声が部室の隙間を埋めるように響いた。
「も、もしかして遥花…私がこう言うって分かっててみんなに話したの?」
「うん?まぁ、ね」
「……」
「でもさ。"見返す"ってことは、武力行使とかじゃないんでしょ?だったらアタシより良いじゃん」
悪戯げに遥花が笑う。
「いや、でも具体的に何をするかはまだ決めてないし…」
「…小説」
「え?」
「みんなをあっと驚かせるような小説作る…
とかどうかな」
麻央が、か細いけれど芯の通った声で言った。
「いいじゃん、それ!ねえ、悠莉と皆絵も良いでしょ!」
遥花が眩しい視線を送ってくる。
「そうだね…だって私たち、文芸部だもんね」
気付けば、私はそう返していた。
なにせ迷う理由なんてない。
「そうだね。…もしかしたらこの部活にも、活気が戻るかもしれない」
悠莉も私に続く。
––––そう。薄々気付いてはいたんだ。
この文芸部は確かに、私にとっては居心地の良い場所かもしれないけど。
"本当に…このまま終わってしまって良いんだろうか?"
そう考えた日もあった。
(違う。終わらせちゃいけないんだ)
その答えが今、ハッキリとした。
「とは言っても…問題はどうやってみんなに小説を読んでもらうかってことだけど」
「押し売りするわけにもいかないしなあ」
「…もしかして押し売りも視野に入れてたの?遥花ちゃん」
「おん」
「…ま、まあそれは置いといて、悠莉ちゃん。
何かアイデア…ないかな?」
「文化祭で出店とかはどう?ちょうど夏休み明けだし。ただ…」
ポリポリと頭を掻き、やがて言った。
「ただ、ここの顧問––––2年前に最後の顧問が
降りた後は、見ての通り誰も居ない。だから出店するには少し骨が折れるかもしれない」
そう。
この部活は今、顧問が不在とかいうあり得ない状況に立たされている。
正直部活と言えるのかどうかさえ怪しい。
それでも"文芸部"が成り立っているのは、この部長––––笠井悠莉の血の滲むような努力のお陰なのである。
「まあでもとりあえず…悩んでても仕方ない、
そうでしょ皆絵?」
「…うん。そうだね」
出店するだけなら、小説を書いてからでもたぶん何とかなるはず。そう信じるしかない。
「じゃあ––––今度こそ部活動、始めよっか」
悠莉の呼びかけで、みんなはそれぞれのペンを手に取る。
夏日に照らされたインクの文字が、原稿用紙の上でゆらめいていた。
そう。これは––––
「…私たちの、文芸部奪還作戦だ」
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