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部室には、先客が二人居た。
「あ…二人とも来た!」
華奢な少女––––
つられて、彼女の横に居たもう一人の少女も柔和に微笑んだ。
「ゴメンゴメン、待った?」
「いや、私たちもついさっき来たばかり。始めよっか」
長身の少女––––
「ほら皆絵も、そこ立ってないでこっち来て。部活始めるよ?」
「あ……うん」
彼女のクールな声音に引き寄せられるようにして、私は部室へ足を踏み入れた。
今日も、この時間が始まる。
「あはは!なんだそれ、ウケるー」
「ほ、ホントだよ。空にピンク色の光がぼうって現れたと思ったら……スッと一瞬でどっか行っちゃって」
四人で机を囲み、それぞれの小説を書く。
おしゃべりしながら。
オカルト好きな麻央はさっきからUFOの話を語り続け、遥花はそれを楽しく聞いていて…そんな様子を悠莉は可笑しそうに見ていて。
小説を書くときのBGMとしてはうるさいけど。
これが、文芸部の通常運転。
いつもと何も変わらない。
でも、私にとっては一番居心地の良い場所。
そう断言できた。
そう、このままずっと––––
「…皆絵。数学の時間大丈夫だった?」
「え?」
突然、悠莉がニヤリとした表情で尋ねてきた。
「えと、大丈夫…ってなにが?」
「先生に聞かれて、手こずってたね」
「え゛っ」
なんでそれを!?
「私たちは受験シーズンだから、授業終わるの早くて。それでたまたま皆絵の様子見に行ったら面白いことになってたから」
「そ、それで…」
「教室のドアからこっそり答えをふき込んだ。おかげでほら、恥かかずに済んだでしょ」
「そうだったんだ…いや私は恥かかずに済んだけど」
自分は恥ずかしくないんかい。
「…で、バレなかった?そんなことして」
「バレてない。だって私、影薄いし。誰も気付いてなかったよ」
何故か誇らしげに胸を反らす。
「自慢するとこじゃねーっつうの、そこ」
「いて」
遥花におでこをペシっと叩かれ、悠莉が微笑んだ。つられて、遥花や麻央も笑い出す。
「影が薄い、か。私はそんなことないと思うけどな。部長さんだし」
「え!?皆絵それって、アタシたちヒラ部員は影薄いってこと!?」
「あ、いや!そういうことじゃなくって!」
「このこの〜!」
「あ、ちょっとやめ、あはは!」
遥花がくすぐるフリをしてくるので、思わず身を捩ってしまう。
「まあ部長といってもこんな様子じゃあ、さ」
「……悠莉?」
物悲しそうに、悠莉は部室を見回した。
その意図が私たちにはすぐに分かって。
「この夏が終わったら––––もうこの場所は無くなる」
「悠莉ちゃん…」
か細い麻央の声がイヤに響くほど、部室は急に静まり返り。
「あのさ」
その静寂を破るように声をあげたのは。
「…遥花?」
「皆絵。さっきのこと、みんなに話しても良いかな」
「え、さっきのことって…」
彼女を見る。
その目は決意で満ちていて、そして。
変わらず、煌々とした輝きを私に見せた。
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