それは、私の文芸部奪還作戦

ShiotoSato

Chapter1「一人の少女が行く」

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「ふぁ…ぁ…」


窓の外を見やって、私は欠伸をしていた。

空はあいにくの雨模様。


 月曜日の時間割は昼食後の5時間目に体育、

6時間目に数学という即死コンボだ。


平常点に響くので、授業の内容は分かんなくてもなるべく寝ないよういつも頑張っている。


けれど今はそれさえも億劫だった。


「……山さん。丘山さん?」


…げ。先生の声だ。

寝てたことを悟られてはまずいので、なるべくキリッとした返事を心掛ける。


「あ、はいっ」


「はい、じゃあ…三角関数の復習です。tan45°はいくつですか」


「はい––––は?」


急速に頭の中が真っ白に染まる。


タンジェント?タンジェントって何だっけ?

あ、やばい––––


「…1」


不意に…誰かの声が聞こえた。


「い、1です」


「はい、そうですね。えーtanθの求め方は…」


声のした方に振り向く。

けれど、もう誰も私のことなんて気にしてはいなかった。





…放課後になっても考え込んでいた。

まさか、私を助けてくれる人がいるとは。


ため息をついて机に突っ伏す。


本当はこういう時、感謝とかしたほうがいいんだろうけど…

そもそも誰が言ったのか分からないし、それに。


「…他人とまともに話せるコミュ力もないし」


「あー、確かに」


「え…?」


誰!?


「……あ、なんだ」


顔を上げるとすぐ横に立っていたのは、

衿戸遥花えりとはるか––––陽キャ幼馴染だった。


「なんだ、とは随分ご挨拶じゃん。どしたの」


「いやいい。たぶん遥花に説明してもこの気持ちは理解されない。というかできるはずない」


「なんだそりゃ」


遥花は変なの、といった感じで首を傾げた。

この少女はおそらく、人との関わりで苦労をしたことなんてないだろう。


「てかしれっと私がコミュ症だって言ったこと肯定しないでよ」


「だって事実でしょ」


「まぁ、うん」


否定しようがない。


「何があったのか知らないけど、皆絵はいちいち気にし過ぎなんだって。そんなんじゃあと10年で毛全部抜け落ちるよ?」


「…なんだそれ」


ストレスでハゲるってこと?


「…ってかそういう話じゃない。いきなり現れないでよ、ビックリするでしょ!」


「だって今日部活の日だよ?皆絵のこと呼びに来たのに、それはないなぁ」


「いや、いくらなんでも神出鬼没すぎ––––」


「ねえ、丘山さん?」


その時、背後から声が投げかけられた。

振り向くと男子4、5人程度のグループ。


「……っ」


また…この子達。

足がすくみ、怖くて声が出ない。


「ねえ、今日もあるわけ?文芸部」


「……は、はい。あります…けど」


その瞬間、後ろに居た男子達が一斉に笑った。


「あははっ。面白いね、丘山さん!そっかそっか文芸部かぁ」


「………な、なに?」


…なんでこの子達、いつも笑うんだ?

何がそんなにおかしい?


「だって、文芸部って––––」


その瞬間。

彼らの言葉を遮るように、遥花が私の手を引いて教室を出た。






「…っはぁ、はぁ……」


気が付けば、部室の前まで引っ張られていた。


「……っ遥花、なにを…」


「皆絵、さっきのあいつら…前にもあんなことしてきたの?」


「…………」


私は黙って頷く。


すると、遥花がいきなり私の肩を掴んだ。

煌々とした目で、私を真っ直ぐに見つめる。


「次あんなことやられたらアタシ達に絶対言って。今回だって本当は殴ってやりたかったけど…次があったら、今度こそ殴ってやるから」


「う、うん…ありがとう」


遥花は本当に武力行使しかねないので、気持ちだけ受け取っておく。


私の返事を聞いて安心したのか、遥花は表情を緩めた。そのまま部室のドアに手をかける。


「失礼しまーす」


元気の良い声が辺りに響く。


ふとそんな遥花の後ろで、私は窓の外を見やった。

広がる景色は––––変わらず雨模様。


うんざりするほどに付きまとう夏の暑さが、

クーラーの効いた部室の中へと私を押しやった。









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