第185話 女心。

「待たせたわね」

「いえ、全然」


 天使さんとお付き合いが始まった翌日、僕は留愛先輩とのお買い物の約束を果たすために待ち合わせをしていた。


 天使さんの家を出た後に留愛先輩から予定を聞かれたので色々と天使さんに確認を取ったりする羽目にはなったが、これも契約なので仕方がない。


「巫女さんの仕事はもうよかったんですか?」

「三が日が忙しいだけよ。あとはどうとでもなるわ」

「そうなんですね」


 駅での待ち合わせということもあり、とりあえず電車に乗る。

 留愛先輩のお買い物に同行するので僕は行先を知らない。


「ちなみにどこに行くんですか?」

「猫カフェよ」

「……お買い物では?」

「カップル料金だと安いのよ」

「べつに僕らカップルではないですけども」

「せ、節約よっ」

「留愛先輩の家はお金持ちそうですし、そんなに節約する必要ないと思うのですが」


 留愛先輩個人の離れなんて建ててくれる家だし、お小遣いなんて簡単に貰えそうという酷く安直な疑問。


 ちなみに本部家は基本的に僕が金銭管理をしているので千佳も僕もお小遣い制である。

 なので真乃香さんには色々と頭が上がらなかったりする。


「あんたも包丁を握る者ならわかるでしょ。調理器具を欲する気持ちを」

「……たしかに」

「最近の百均とかも凄いんだから」

「留愛先輩も百均とか行くんですね」

「行くわよそりゃ。便利だもの」

「でも猫カフェは行きたいと」

「お母様は猫アレルギーで親父おやじは犬アレルギー。そして私はひとりっ子。寂しくて堪らないのよ」

「ということは今日はお買い物ではなくて猫カフェに行くんですね」

「何を言ってるのよ。もちろんお買い物もするわよ」


 当然じゃない! という顔をしている留愛先輩。

 話がもう色々と違うのだが、まあこれも仕方のないことなのかもしれない。


 そもそも年末の忙しいであろう時期におせち作りの協力を依頼した側である。

 借りがあるのでそれは受け入れるしかないだろう。


「べつに健は彼女とかいないでしょ? ならいいじゃない」

「……えと……その……います」

「……え、…………いるの?」

「昨日、はい……」

「なによそれ聞いてないわよっ!」

「誕生日の日にですね、告白されまして」

「昨日できて誕生日って昨日が誕生日ってことよね?! それも聞いてないし」


 僕の恋人の有無でそんなに動揺する? と疑問に思いつつも自分自身がこんな事を言う事になるとは思ってなくて僕も動揺している。

 なんか変な感じするし気恥しい。


「ち、ちなみに相手は誰なのよ?」

「恥ずかしいから言いませんよ」

「べつに言いふらしたりなんかしないわよ」

「留愛先輩、友だち少ないですもんね」

「うるさいわねっ。…………だから気になるんじゃない…………」


 口を尖らせてごにょごにょと文句を言われているがこればかりはどうしようもない。


「てか彼女いるのになんで今日来たのよ?」

「いや、それはおせちの件でお世話になりましたし、約束ですから」

「……それはそうだけど……」


 恋人がいるかどうかと約束の有無はまた別問題である。

 おせち作りに協力してもらって用が済んだら約束を破るのはよくないだろう。


「……今日はもう帰る……」

「帰るんですか?」

「帰るったら帰るの!」


 なぜか怒って駄々をこねだした留愛先輩にさらに困惑する僕。

 どうしてこうなった?


 あれか、同じぼっち仲間だと思ってたのに彼女いるとかリア充かよ! 萎えるわー。みたいなこと?


 まあ僕も友だちは多い方じゃないし天使さんとの交際が始まったとはいえ未だに非リア充側の人間である自覚があるのでなんとも言えないけども。


 べつにパリピでも陽キャでもないしなぁ……


「絶対負けないからっ!!」


 半泣きで宣言するほど悔しいのか?!

 ん? まって? 勝ち負けならこの場合は料理対決の話?

 どうしよう、留愛先輩の心情が全くわからん。


 スタスタと足早に人混みへ消えていく留愛先輩の背中を眺めながら僕は呆然と立ち尽くしていた。


「……とりあえず寒いし帰るか……」


 その後はアホみたいに留愛先輩からの罵倒のメッセが一方的に送られてきた。

 でもなんでこんなに罵倒されているかは結局よく分からなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る