第181話 唯一。
「……違う。これじゃない……たぶん」
新年を迎えてからあたしは料理を作り続けていた。
本部くんに食べさせる為の料理。
でもどうしても納得がいかない。
「……餅つき大会断ってまでやってるんだから、ちゃんとできないと」
本部くんへの誕生日プレゼント。
色々考えたけど結局なにも浮かばなかった。
いや、浮かんだは浮かんだ。
けどあたしが手編みのマフラーとかなんか絶対違うし、本部くんが貰っても困ったりするかもなぁとか考えてたら無理だった。
「まあ、結果的に1番無理なものを選んでしまったんだけどね……」
本部くんにあげるプレゼントがよりにもよって料理である。
ワインソムリエにその辺で買ってきたワインをプレゼントするみたいなものだ。
料理の腕はまだまだ本部くんに勝てないし、そもそも本部くんより上手くなりたいと思っているわけではない。
「……やっぱ本部くんには勝てないのかなぁ……」
背景モブ太郎こと本部くんのインスタをこっそり覗いた。
ひっそりやってるわりには画像の料理たちはキラキラしてて美味しそうだ。
本部くんのインスタにあげている料理のコンセプト? はなんとなくわかる。
家庭料理をオシャレにする。
盛り付けとかいつもと少し違う食材で綺麗に魅せたりする。
他にもたくさんのオシャレな料理をインスタにあげてる投稿者さんはいるけど、あたしが惹かれたのはそう言った家庭的なイメージの延長線だったからだ。
こんな料理を作れたら、ママも喜ぶかな。
そう思って見てた。
そしたら高校になって本部くんと出会って、料理教えてもらって。
「分が悪すぎるぅー」
でもこれしか今のあたしにはできない。
けどできてない。
「そこそこできてるとは思う。けどもやっぱ違う気がするんだよねぇ……」
あれじゃないこれじゃないを繰り返している。
やれることはだいたいやった。
それでもダメだった。
でも本部くんの誕生日は明日だ。
時間は無いし、失敗作を収める胃袋はあたしの分だけだ。
考えを切り替えてあたしはスマホで電話を掛けた。
「もしもし? 喜屋武ちゃん? 今電話大丈夫かな?」
『天使ちゃんあけおめ〜ことよろ〜。大丈夫だよ』
「あけおめ。ことよろ〜」
現状で最も本部くんの事を知っているであろう喜屋武ちゃん。
喜屋武ちゃんでダメならもうダメだ。
『どしたの?』
「ごめんね。三が日に」
『いいよいいよ〜私もおじーおばーたちの相手ばっかだったさ』
電話越しに賑やかな人の声がする。
忙しそうで申し訳ないなぁと思いつつ、聞きたい事を聞いてみる。
「本部くんの味の好みを知りたくて」
『ほほぅ』
「……喜屋武ちゃん、今すっごく面白そうな話って顔したね」
『そりゃそうだよ〜。私の大好物な話だし?』
「ん? まあ、食べ物の話だけど? うん」
ちょっと何言ってるか分かんないけど、とりあえず話を進める事にした。
「本部くんから料理は教わってたしなんとなくはわかるんだけど、本部くんのお母さんの味とか、小さい頃とかどんなだったのかなぁとか知りたくて」
『なるほど。そういう事ね♪』
なんか喜屋武ちゃんがすごく楽しそうなテンションで話してくれる。
それはもう饒舌に。
てか普通に標準語だし訛り無いし。
別人説が今あたしの中で浮上してるよ……
『まあでもたーけーの両親は共働きだったし、あんまり料理は作ってなかった印象だったな』
「そっか。共働きだと忙しいもんね」
うちもパパが死んでからママはいつも忙しそうにしてたし、大変だよね。
『たまぁにご馳走になることあったけど、今のたーけーよりは料理はそこまで美味くなかった? 気はする。ぱぱっと作って即仕事へゴー! って感じだった』
片親だと、仕事と家事の両立は難しいし大変だ。
あたしが掃除とか手伝えるようになってようやくママの負担が減ったけど、それでも料理はママだった。
「参考になったよ。ありがと」
『明日誕生日だもんね〜。胃袋掴めるといいねぇ』
「が、頑張る……」
『じゃあ私はそろそろ親戚のとこ行ってくるね。お年玉貰ってくるー』
「うん。ありがと」
わかった事は、色々あった。
できるかどうかは結局わかんないけど、あとはやってみるだけだ。
「よしっ。もうひと頑張りしよう!」
今のあたしにできる、唯一の勝負だ。
これでダメなら見明っちゃんか黒須ちゃんに負ける。
だから負けられない。負けたくない。
この初恋を、想い出にしないで済むようにとあたしは包丁を握った。
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