第175話 あけおめ初詣③
本部くんの寒がりはずるい。そう思う。
「本部くん、お守り買いに行こうよ。ボク1人だと冨次先輩が怖いからさ」
「留愛先輩って怖いですか? 面白い人ですけどね。いや、まあたしかに怖いといえば怖いか、うん」
なにがどうずるいとか、そういうんじゃないんだけど、全部それで片付けて遠ざけようとするのが多分ずるいと思うんだと思う。
「でしたら私は是非とも恋愛成就のお守りを買わねばっ」
黒須ちゃんが羨ましいとよく思う。
今だってこうして露骨に本部くんへのアピールを欠かさない。
さっきのおみくじの結果だって、そのまま信じるなら「本部くんへの恋は叶わない」という事そのものだった。
それでもこうして健気に頑張っているのを見るとやっぱり焦ってしまう。
いっそ嫌いになれたら、楽だろうなって思う。
でも、見明っちゃんも黒須ちゃんの事も嫌いにはなれない。
どうしたって、友だちだ。親友だ。
「留愛先輩、似合ってますね」
「どうもっ!」
「冨次先輩、寒そうですね」
「寒いわよそりゃ」
「どうして冨次先輩はここで巫女さんをしてるんですか? ボクは知らなかったです」
「家の都合よ」
たくさんのお守りや
そしてそれを管理する冨次先輩。
巫女服を違和感なく着こなす冨次先輩はとても可愛い。
姿勢の良さから冨次先輩の育ちの良さがわかる。
ぶっきらぼうな態度でも、美人の放つオーラは凄まじい。
「留愛先輩、学校でも巫女服とか着てたら友だちできそうじゃないですか? 」
「余計なお世話よ。健のくせに生意気ね」
「先輩、巫女服似合ってますね」
「まあ、昔から着てるもの」
「あたしも着てみたいなぁ」
巫女服には謎の魅力がある。
でも中に着れる服に限度があって寒いとも聞く。
オシャレは我慢、よりもさらに上をいくのである。
「なら来年ここで巫女のバイトでもしたら? あんた顔良いし、大丈夫だと思うわよ」
「まさかの顔採用?!」
「いや別に顔採用とかでもないわよ。バイトなら処女とかも関係ないし」
「……いや、その、処女、ですけど……」
「…………そぅ…………」
あたし、何言ってんだ……恥ずかしいなこれ。
まああたしの完全な自爆なんですけども。
「天使さんが巫女服着るなら桃原さんも来年はこれで決まりですね」
たまに本部くん、男の娘好き説流れるんだよね、あたしの中で。
寒い寒い言ってたのに桃原くんの肩に手を置いて満面の笑みだよ。
桃原くんにも嫉妬だよ。
「ねぇ本部くん、いよいよボクに本気で巫女服着せようとしてるよね? なんか色々とダメだと思うんだよね」
「大丈夫ですよ。桃原さん女の子みたいですし。私も応援してますから」
「ボクじゃなくて黒須さんが着たらいいと思う!」
謎の巫女服押し付け合いが始まったりしてる間にもお守りを買ったりと初詣を楽しむのも忘れない。
「健、あんた忘れてないでしょうね?」
「覚えてますよ。約束ですよね」
「あとで空いてる日、教えなさいよね」
「わかってますよ」
なんの約束なんだろうか。
デートの約束、とかだったりするんだろうか?
たまたま聞こえる距離にいただけ、だけど、それだけで複雑な気持ちになった。
本部くんが冨次先輩に対してどう思ってるかはわからない。
でも、少なくとも冨次先輩の今の顔は女だった。
好きな人の前での女だ。
そうなる気持ちもよく分かって、だから同時に辛くもある。
自分が本部くんを好きだという気持ちが、負けているんじゃないかって錯覚にすら
「お守りも買いましたし、そろそろ帰りましょう。本気で寒くて眠い」
「本部さん、おんぶしてあげましょうか?」
「黒須さんそれはやめて。男としての自尊心が傷付きそうだ」
「じゃあボクがっ」
「桃原さんだと潰れてしまいそうなので遠慮しますね」
「そんなにボクは細くないよっ」
あたしの想いは、本部くんに届くだろうか。
本部くんの誕生日はもうすぐだ。
神様からのお膳立てだってある。
きっと、大丈夫だ。
だって、本部くんの隣で料理を教えてきてもらっていたあたしだからできる事がある。
本部くんの心を掴むチャンスを、あたしはものにするんだ。
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