第173話 あけおめ初詣①
「……あの……」
「やっぱ夜だと寒いね!」
「……だから、あの……」
「夜の参拝は中々の雰囲気ですね」
「ボク、参拝より甘酒飲みたいなぁ」
「あれ? あの巫女さんって冨次先輩じゃない?!」
「たしかにそうみたいですね」
「冨次先輩が巫女服着ると、なぜか強そうに見える……ボクも着たらそう見えるかな……」
「……あの、帰っていいですか? 本格的に寒くて死ぬん」「いざ参拝っ!!」
まるで捕らえられた犯人かのように両腕を黒須さんと天使さんに掴まれて夜の神社の鳥居を
沖縄そば食べていい感じに眠くなってきていたところに天使さんの奇襲と黒須さんの連携により連行されて今に至る。
年末の去り際に天使さんが初詣の約束を取り付けていたが、まさか新年早々に家に来るとは思っていなかった。
……せめてお
ただでさえ寒いのに、なんで人も多くて寒い夜なんかに……
「本部くん、なんか夜の神社って凄いね。ボクは初めてだから不思議な感じがするよ」
「奇遇ですね。僕も夜の参拝は初めてです。寒いのになんで僕は今ここにいるんだろうと不思議な気持ちです」
メンツ的には千佳と真乃香さん、見明さんも誘ったらしい。
千佳と真乃香さんは寒いから後日と言って断った(なぜ僕だけ……)。
見明さんは美心さんがまだ小さいから遠慮しておくとの事でこのメンツとなっている。
要するに寒い。
寒過ぎて全然要約できてないけどまあいいか。
おうちにかえりたい……
「……最近の若い子たちは元気だねぇ。夜中だってぇのに」
「健おじいちゃん、あたしたちと同い年だよ。帰ってきて」
「今なら本部さんを介護できるので……」
「黒須さん、介護って大変って聞くよ」
「大丈夫ですっ」
ほんと、なんでみんなそんなに元気なの?
寒いじゃん……今日はほんと寒いしか言ってないまである。
「……天使さん、こんなに寒いのにお清めしないと、ダメなんですか?」
「しないと失礼じゃん」
「はい本部さん、お手手を洗いましょうね〜」
「黒須さん、介護っていうか保育士みたいになってるよ」
「さ、さ、さ……さむい……」
手順が決まっているらしいのだが、沖縄人故に馴染みがあまりない。
神社によっては手水舎の水が止まっている事もあったりするために覚えるのは僕にとって地味に難しかったりする。なにより寒いし。
「本部さん、よくできました〜」
「黒須ちゃん、甘やかし過ぎだよ……」
「……苦しゅうない」
「本部くんが調子に乗り始めてるっ?!」
ハンカチで僕の口を拭いてくれる黒須さん。
甘やかされるのも悪くないな。うん。
できればこのままぬくぬくしたお家に帰りたい。
「では行きましょう、天使さん」
「行こう!」
「……やっぱ行くんですね……」
「本部くん、あとでボクと一緒に甘酒飲もうね。あったかいやつあるみたいだから」
「そういえば甘酒って飲んだことないです。美味しいんですか?」
「甘くて美味しいよ」
沖縄から引越して数年経つ訳だが、あまりこちらの宗教観、というか、そういうのには慣れていないままである。
甘酒だって、テレビや漫画やアニメで出てくる物、という認識がある。
スーパーで缶のやつとかも見たことあるし、見たことがないとかそういうレベルじゃないんだけど、普段わざわざ買って飲むようなメジャーでありふれた飲み物という印象もない。
「私は甘酒の美味しさがわからないのですが、お酒ではないのですよね。味がわからない分、とろっとした物が喉を通っていく感じがどうも気持ち悪くて……」
「まあ、黒須さんは仕方ないですよ」
味がしない物を口にするのは思いのほか苦痛を
昔お店で食べたこんにゃくが、全く味がしなくてすごく異物感がして吐きそうになったことがある。
味がしないというのは辛いことである。
「けっこー人多いね。夜中なのにね〜」
「なにも1月1日の夜中に初詣しなくてもよかったんですよ。みんな考えることは大体一緒ですし、夜中の参拝っていう非日常にみんな浮かれてるだけなんですから」
「も、本部くんの目が死んでいく……」
「こんなに寒いのに、行列に並んで寒さに耐えないといけないなんて……」
「これはいけませんね。本部さんが相当重症です。本部さん、やはり私が抱きし」「黒須ちゃん」
「……ボク、なんで呼ばれたんだろう。場違いな気がする……」
初詣の目的は神様への挨拶。
がしかし列は長く、
これは俗に言う試練というやつかもしれない。
「……
新年は、始まったばかりである。
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