第170話 年末おせち作りで仲直り大作戦④
本当は本部くんとふたりだけで、おせち作りがしたかった。
ふたりで一緒に四苦八苦して、失敗したり笑ったりして作りたかった。
「もう大体は出来上がってますね」
「当たり前よ。私が教えてるんだもの」
「流石留愛先輩です」
「もっと褒めなさいっ」
たぶん、本部くんがみんなを呼んでおせち作りをしたのはあたしと見明っちゃんの為だ。
沖縄に行った時もそうだったけど、本部くんは周りがよく見えている。
でもあたしや見明っちゃんの好意とか、そういうのは見えない。
それだからか、この状況がいたたまれない。
「ボク、こんな豪華なおせちが食べられると思ってなかったよ」
「直人さんたちに感謝ですね」
「来年もご贔屓にしてくれると俺の父親的には助かるな」
「検討しておきます」
べつに、みんなで作るのは楽しい。
嫌じゃない。
「黒豆って、こんなにめんどかったんだな。ウチはもう絶対作りたくない」
「しわしわにならないように結構気を使いましたね」
おせち作りの2日間、見明っちゃんとは話せなかった。
変に気を使っちゃったり、なんか申し訳なかったりとか。
「てんしちゃんみて、みこがこれつくった」
「美心ちゃん料理上手だね。盛り付けも綺麗」
「はなよめしゅぎょー、だよ」
美心ちゃんはあたしにとって妹みたいなものだ。
だから余計にどう接していいか、わからなくなる。
「いい年越しになりそうだね〜直人くん」
「そうだな。来年のお正月はゆっくりできそうだ」
陽向さんと直人さんが羨ましく思う。
ふたりとも、幸せそうだから。
あたしもこんな風に本部くんと一緒に居られたらと思う。
「健、全員分出来てる? 大丈夫?」
「大丈夫ですね。完璧です」
「じゃあこれにておせち作り終了っ」
「冨次先輩、ありがとうございました」
「来年からは自分で作りなさいよ。作るなら」
「はい」
ぶっきらぼうにそう言われた。
最初こそ冨次先輩の印象は良くなかったけど、以外に面倒見が良い人なんだよね。
本部くんの事を「健」って呼ぶのはちょっと嫉妬してるけど。
本部くんも冨次先輩の事を「留愛先輩」っていつの間にか呼んでるし。
冨次先輩も本部くんの事が好きっぽいし、どんどん焦ってくる。
本部くんの事を好きになってくほど、苦しくなっていく。
冬休みである今は、毎日学校で会える環境じゃない。
それがまた焦れったい。
早く冬休みが終わってほしいと思ったのは今年が初めてだ。
「健、締めなさい」
「……僕、ですか?」
「今回のおせち作りの計画はあんたがしたんでしょ。あんたが締めなさいよ。年末だし」
「……まあ、そうですね。そうですよね……」
困った笑顔で小さく咳払いをした本部くん。
初めて会った頃より、ずいぶんと大きくなったような気がする。
背丈とかそんなんじゃくて、なんて言えばいいのだろうか。
「えー、皆様のご参加のお陰で予定していたスケジュールよりも1日早くおせち作りを終えることが出来ました。怪我などもなく、今年の締め括りとしておせち作りができてよかったです。年始をみんなで作ったおせちを各々で食べて、新たな1年を迎えられるように体調には気を付けてお過ごし下さい」
「校長先生かよっ」
かしこまった本部くんのお話に明るいヤジが飛んだ。
「というわけで、今年も1年ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します」
恥ずかしそうに、でもしっかりと本部くんはそう締めくくった。
あたしもみんなも拍手して解散となった。
「本部くん、一緒に帰ろう」
「はい。そうですね」
外は雪が降り始めていた。
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