第134話 料理長。
「オムライス上がりました」
「ありがと料理長!」
「本部くんカレーまだっ?!」
「できてますよ」
「ありがと!」
クラスメイトのメイドたちは教室と家庭科室を慌ただしく行き来する。
僕は一応料理長であるが、基本は忙しい時のみの仕事である。
生徒会にも顔を出さないといけないが、学園祭は始まったばかりであり客は多く、とても現場を抜けれる状況ではないり
「金森さん、とろりんぱちぱちパッフェできたよ!」
「ありがと桃ちゃん!」
「も、桃ちゃんは恥ずかしいからやめてよぉ」
メイド服を着ているが一応桃原は
「1番テーブルのカルパッチョ、シーフードパスタ上がった!」
「冨次シェフ! 貰います!」
「ん」
家庭科室では他クラス・他学年の生徒も当然いるわけだが、ことある事に冨、留愛先輩が僕を睨んでくる。
殺されるんじゃないかと思うくらいに怖いのだが、単に対抗心を燃やしているだけなことは知っているので僕はあえて知らんぷりを決め込んで料理を続ける。
「6番テーブルにオムライス3つとカレー1つ入りました。本部さん」
「了解」
今回、黒須さんは家庭科室に居てもらっている。
受けた注文の管理や調理補助サポートをしてもらう名目で接客から離してある。
最近は闇バイトなどの犯罪も広まっている為、黒須さんの両親以外の客に対しても警戒しないといけない。
闇バイトは簡単に足切りできて報酬も少なくてもいいから厄介極まりない。
なんなら「簡単バイト☆学園祭のメイド喫茶に客として飲み食いするだけ!!」とかありそうだ。
胸元に仕込める隠しカメラとか付けられてたら黒須さんの様子が筒抜けである。
「6番テーブルの料理上がりました」
「了解です」
今回、カレーは作り置きした物をプラスチック容器に小分けして冷凍した物を解凍して提供している。
オムライスと違い、大量に作り置きするにはリスクがあるカレー。
カレーは常温保存は菌の繁殖を促してしまう為である。
なので小分けした1つ1つが商品の適量分で保存してある。
そのため現場では冷凍カレーをレンチンして盛り付けてすぐに提供できる。
作りたてでは具材にカレールーが浸透せずカレーの良さが出ない。
カレーや煮物の良さは冷めていく時に具材に味が染み込んでいくことによる旨みである。
「……美味しそう……じゅるり……」
「黒須さん、つまみ食いとかダメですからね? 商品なんですから」
いやまあそんな顔をされて嬉しくないわけじゃない。
黒須さんが物欲しそうにくまさんカレーを見つめているというのは、作り手としては嬉しいものだ。
仕事や黒須さんの事、色々ある中で些細な事ではあるが、作った物を美味しそうだと言ってくれるのは有難い。
「休憩になったらご馳走しますから」
「頑張りますっ」
本当は、黒須さんには学園祭を欠席してもらいたかった。
だけど、クラスに徐々に馴染んできている今の黒須さんにそれを言うのは
直人さんが協力をしなくていいと言ったのは、学園祭を欠席させようとしていたからだった。
それもひとつの手段としては良いのもわかってはいた。
「本部料理長、味見お願い」
「完璧です」
「やったぜ」
でも、やっぱり黒須さんにはどうにか「普通の高校生」らしく学園祭を過ごしてほしかった。
だから直人さんに協力するからと強引に黒須さんの出席を認めさせた。
その分、僕に余裕はない。
「本部さん、そろそろ空いてきてるらしいです」
「そうですか。では僕は一度生徒会に顔を出すので後をよろしくお願いします」
「任せとけっ!」
クラスメイトである調理スタッフたちに後を任せて家庭科室を出る。
やるべき事も、やらないといけない事も多い。
何事も、なければいいと思う。
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