第133話 学園祭の幕開け。
「みんなっ! 学園祭、頑張るよっ!!」
「「「「おおぉぉぉ!!」」」」
学園祭が始まる。
これからお客さんがくる。
窓からは既に外来の人たちが楽しそうに笑っているのが見える。
委員長の天使さんもみんなを盛り上げてくれている。
「きゃっはぁぁぁあ!! 可愛いっ! 可愛いよみんなぁぁぁ!!」
「……おい百合夏」
やる気に満ち溢れている中、ひとり百合夏はメイド服姿の女子たちを見て興奮している。
スマホ構えて写真撮りまくりだし、鼻血出してるし、床すれすれのアングルから撮ろうとしてるし。
「百合夏、セクハラはやめような?」
「まだいける! まだいけるからっ!!」
「いやもう客来るから!」
なんで誰も百合夏を止めないんだよ……
みんな「やれやれ」みたいな顔するなよ甘やかすかなよ。
なんで百合夏は転校して間もないのにこんなキャラが受け入れられてるんだよ。
「見えないからこそいいんだよっ!」
「喜屋武ちゃん、恥ずかしいから!」
「大丈夫! 大丈夫だから。はぁ……はぁ……痛くしたりしないからっ!!」
「おい変態黙れ」
クラスのみんなには、僕と百合夏が幼馴染であることは知られている。
だからなのか、百合夏の暴走は僕が止めないといけない流れができてしまっている。
「たけ、大丈夫だよ! ちゃんと見えないからっ!」
「そういう問題じゃないから」
「喜屋武さん、これがチラリズムなんですかっ?!」
「そうだよ黒須ちゃん!! 想像性を掻き立てるこの境界がわかるっ?! 黒須ちゃん!!」
いつの間にか黒須さんが毒されてる……
ある意味純粋な黒須さんに何を仕込んだんだよ。
余計な事をして……
「ゆぅり、俺は今日忙しいわけさぁね……」
「だいじょぶ。みんな忙しいから!」
ヘラヘラしている百合夏。
なぜかそれに腹が立つ。
やらなきゃいけない事があるのに、ここまでイライラするのも久しぶりだ。
自分でも、空回っているのがわかる。
「いらんことしたらメーゴーサーだからな?」
「…………た、た〜け〜、怒ってる?」
「でーじ怒ってる」
今日は僕も張り切っていた。
生徒会、学園祭、黒須さんの事。
キャパオーバーしてしまうかもしれないからと落ち着こうともしていた。
だけど、百合夏がふざければふざけるほど僕の仕事は増える。
「ま、まあまあ本部くん。学園祭だし、喜屋武ちゃんもテンション上がってるんだよ!」
「そんなに怒るよな本部。喜屋武が変態なのはもうみんな知ってっから大丈夫だって」
天使さんと見明さんにフォローされてしまい、冷静になる。
百合夏相手だとどうしても調子が狂う。
幼馴染はやりづらくて困る。
ここは沖縄じゃないのだから
「……すみません。取り乱しました。僕も反省します」
「本部くんも生徒会とか忙しいし、しょうがないよ! でもせっかくの学園祭だし、楽しもうよ」
陽向さんの話を聞いてから、色々と考えていた。
考えたけど、対して出来ることなんてなかった。
「そうだよ本部くん。ボクも、頑張るから大丈夫だよ」
口元をぷるぷると震わせてメイド服を着ている桃原が僕にそう言ってきた。
とても可愛らしい格好な桃原なわけだが、結局桃原は強引に押し切られてメイド服を着て仕事することになってしまったからである。
いやまあ僕も悪いんだけどさ。
「てか本部も方言とか喋るんだな」
「
クラスメイトも僕を茶化して楽しそうに笑う。
僕が怒りすぎてしまったから、気を使わせてしまった。
「た〜け〜はね、昔は私みたいに普通に
「本部の方言も意外だけどなんかしっくりくるな」
「てか沖縄の人も怒るんだな」
「当たり前さぁ。人間だよ?
……僕に怒られてから静かにしてたのに、もうヘラヘラしながらクラスメイトたちと喋り出す百合夏。
まあでも、一応百合夏も普段のキャラに戻っているからいいか。
やらかさんかったらそれでいいやもう。
「呼び込み班がお客さん連れて来たよ! みんな配置に付いて!!」
切り替えろ。仕事だ。
そう言い聞かせても、昨日直人さんに言われた事が頭にちらつく。
それでも、何事もなく終われるだろうか。
☆☆☆
「ごめんなさいね。こんな時間に」
「いえ。大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか? 直人さん」
「透花の事でちょっとね」
夜中0時を過ぎてから、直人さんからの電話で僕と直人さんはふたりで海に来ていた。
直人さんは女装したまま車で迎えに来て、それで今に至る。
「前に頼んでいた件、やっぱり健君には協力して貰わない方がいいと思ったの」
「……理由は聞いていいですか?」
奢ってもらった缶コーヒーに手を付けることも忘れて問いかけた。
僕はすでに黒須さんについて踏み込んでしまっている。
今更それは筋が通らない。
「理由も、あまり言いたくはないわね。貴方の為にも」
「……それで、何も問題はないんですか?」
「元々、健君に協力をお願いしていたのは保険だったの。でも状況が変わった。だから、保険じゃ釣り合いが取れない。取れなくなった」
なおさんは暗い海を眺めながらそう言った。
静かな声でそう言ったけど、それが良くないことであることはわかった。
「……それでも……」
「健君」
僕が紡ごうとした言葉の先で、なおさんはそれを止めた。
「貴方は、もしもの場合に……透花の為に、人を殺せる?」
とても静かに、冷たく僕にそう問いかけてきた。
そういう話になってしまっているのだと、なおさんの目がそう告げていた。
☆☆☆
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