第131話 生徒会室の恋バナ。

「本部」

「……なんですか会長」


 放課後の生徒会室。

 全員、目が死んでいる。

 忙しい。それに尽きる。


 僕1人が新たに加わった程度でどうにかなるような仕事量じゃない。焼け石に水である。


「本部、一発ギャグして」

「僕に生き恥を今ここで晒せと?」

「……私の贄となれ」

「嫌です」

「じゃあ本部くん、裸踊りとかどうかしら?」

「鬼畜すぎるでしょ仲道先輩」


 こんな会話を、みんな書類やパソコンと睨めっこしながらしているのである。

 仕事に忙殺されそうな中でのささやかな抵抗として僕は弄られているのである。


 この生徒会、ブラック過ぎる。1年の新人の副生徒会長にそんなセクハラ紛いな事を要求しているのである。


「本部、とりあえず指の骨折らせて」

「とりあえずで人の指折ってストレス発散しようとしないで下さいよ早乙女先輩」


 多口会長大好き早乙女先輩は会長とイチャイチャする暇もない為か、非常に不機嫌である。

 怖いなぁ……


「じゃあ本部くん、膝枕して」

「生徒会唯一まともな本庄先輩までボケに逃げないで下さいよ供給過多ですよボケ比率」


 メガネ越しの死んだ目はいつもより酷い。

 せっかくまともであり美人なのに、これではあんまりだ。

 どんだけ追い詰められてるんだよこの職場。


 てか可能なら僕が膝枕されたい……

 今なら、安らかにける気がするんだ。


「お前ら〜差し入れだ」

「チョコミント先生、先生も手伝って下さい死にます」

「無理だ。私はチョコミントアイスを食べるのに忙しい」


 吉村先生がいつものようにチョコミントアイスを差し入れに生徒会に顔を出したわけだが、先生は基本手伝わない。


 まあ、顧問なだけであって生徒会の人間関係という訳では無いので仕方ない。


「……チョコミントアイスが染みる……」

「本部くん、知覚過敏なの?」

「違います。疲れた身体に染み渡るだけです」

「おっさんみたいなこと言ってる」

「今なら世の中の働く人の気持ちがよく分かりますよ」


 サラリーマンたちが残業終わりにビール片手に住宅街を歩いて帰っている姿を思い出した。

 酔っ払ったサラリーマンが「酔ってなきゃやってらんねげな……嫁も怖いし」とか呟いてるの見てなんか悲しくなった記憶がある。


「大丈夫だ本部。君もいつか社畜になって今より辛い日々をきっと過ごすさ」

「なんでそんな辛い事をさも良い事みたいに清々しい笑顔で言うんですか吉村先生。人生辛すぎじゃないですか」

「本部くん、私たちはまだ10代やけど、たぶん人生ってそんなもんやで?」

「達観し過ぎでしょ仲道先輩。せめてもう少し明るい未来を後輩に見せてくださいよ嘘でもいいから」


 隣にいた仲道先輩は僕の肩に手を置いてサムズアップしてきた。

 ……せめてもう少し、生徒会くらいは明るくていいはずなのに現実はこんなものである。


 実質ハーレム状態であるが、生憎とこれはコミックでもアニメでもない。

 人生においてラッキーなんかを期待してはいけない。

 きっとそういう事なのだろう。


 まあ、期待なんて元からしていないけれど。


「さらに言うとな本部、学園祭フィーバーで校内に彼氏彼女が増える」

「私たちは仕事してるのにぃぃぃ……」


 本庄先輩は項垂うなだれた後頭部を晒しながら絶望している。


「私は会長がいるなら問題ない。が他人がイチャイチャしてるのは嫌」

「この時期だと愛ちゃんが暖かいからありがたい」


 遂に耐えきれなくなった早乙女先輩が多口会長に抱き着いて頬擦りをし始めた。

 なんで会長は平気でアイス食べてるんだろうか。

 てかアイス食べてて早乙女先輩を湯たんぽ扱い。

 贅沢の極みではなかろうか。


「うちらは去年も学園祭の後始末ばかりで後夜祭もちゃんとは参加できてへんもんなぁ」

「なんかお前ら、顔は良いのに男っ気ないよな。可哀想に」

「先生やて男っ気よりチョコミント臭ばかり漂わせてますやんか」

「チョコミントになら抱かれてもいい」

「吉村先生は羨ましい……チョコミントとという伴侶がいて」

「本庄先輩、それは本当に羨ましいですか?」

「私なんてぇぇ」


 本庄先輩、チョコミントでもいいから彼氏欲しいのだろうか。

 いやそういうことじゃないのはわかるけどさ、なんか悲し過ぎる。


「本部はどうなんだよ? 先生は生徒の恋バナも大好物だせ?」

「僕が輝かしい青春ラブコメ送ってるように見えますか?」


 青春してる暇はない。

 勉強と家事で忙しいのである。いちおう。


「うちはそう見えるけどなぁ本部くん? 可愛い金髪ギャルに料理教えて、銀髪美女と妹ちゃんに料理作ったり教えたり、黒髪ロングの美人に晩御飯毎日食べさせて、調理部部長と料理対決というイチャイチャしとる本部くん?」

「とりま本部死ね」


 おいちょっと待て。

 なんで早乙女先輩そんなに人をゴミを見るような目で見るんですか。そして「死ね」は酷すぎる。


「ま、間違ってないけど違いますよ。青春ってもっとキラキラしてるでしょ?」

「本部くん! 私は信じてたのに!! 酷いよっ!!」

「本庄先輩ヒステリック起こすの止めて下さいよ……」


 本庄先輩は僕の何をどう信じていたのだろうか……


「で? 本部は誰が好きなんだよ? ゆってみゆってみ? 美香お姉さんが聞いてあげるよ?」

「いやそもそも吉村先生は面識ないでしょ」

「吉村先生、これがこの子たちのリストですわ」

「仲道先輩、純粋に怖いので人の個人情報を勝手に教えるの止めてくださいよ」

「生徒会の権力のうちやで」


 にっこり笑顔なのに全然可愛くない。怖い。

 なんなんだこの人たち。


「ほれほれ言ってみ?」

「本部キモイ」

「本部くんの裏切り者っ!」

「本部、お腹空いたからチャーハン作って」

「白状してな本部くん」


 この生徒会、絶対おかしい。

 支離滅裂過ぎる。


「……絶対言いませんから」


 こんなんで生徒会をやっていけるのだろうかと不安が残った。

 てか、女の人ってこわい。

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