第130話 それぞれの役割。

 クラスでのメイド服お披露目会も好評であり、いよいよ本格的に学園祭に向けて動き出す。

 と言ってもあまり時間があるわけではない。


「女子生徒もといメイドさんたちにはラテアートもマスターしてもらいます」

「ラテアート?! てかうちらでもできんの?!」

「なんか難しそー」


 直人さんの知り合い経由で借りてきたエスプレッソマシンで講習を行う。


「ダメだ! 全然無理っ!!」

「なんて本部はそんな簡単にできんの?」


 動画を見て勉強したら案外簡単に僕でもできたのでどうにかなるだろうと教えることにしたわけだが、思ったより教えるのは難しい。


 というか、喋ったこともない女子たちに教えるのがそもそもハードルが高い。

 天使さんや見明さんもいるからまだ気が多少マシではあるが、会話しづらい。


「これってアレに似てね? ネズミーランドの地面に水で絵を書くやつ」

「たしかに似てるかも!」


 ネズミーランド行ったことないからよく分からないけど、勝手に盛り上がってるからどうにかなる、かな。


 男子チームに料理を教えないといけないし、忙しい。

 社畜みたいだなぁ、僕。


「……えっと、とりあえずもう一度手本を見せますね」

「よろぴくっ」


 ……女子たちのテンションについていけない……


「まずはエスプレッソを淹れたカップを傾けます」

「ふむふむ」

「傾けたまま、フォームドミルクを落とし込みます。この時にエスプレッソの中でどうミルクがうごめいてるか想像しながらやるとなんとなくやりやすいです」

「蠢いてるとか表現草っ。本部ウケる」


 笑われている……

 女子高生、怖いな。


「傾きを徐々に水平に戻しつつ最後に真ん中に線を引くイメージで注げばハートのラテアートの完成です」

「可愛い」

「本部くん乙女説」


 感想はいいから真面目に学んでほしい。

 まあでも幸いにも、失敗作は男子チームが喜んで飲むからいくらでも練習できる。

 男って便利な道具だな。


 とか言ったら怒られそうだから言わないけども。


「てかさ、なんでエスプレッソってエスプレッソって言うわけ? コーヒーと何が違うの?」

「僕も専門的な事は知らないですがエスプレッソは高圧で抽出、普通のコーヒーはお湯でそのまま抽出、水だしコーヒーはゆっくり水を垂らして湿らせて徐々に抽出、とか色々あるそうです」


 エスプレッソマシンもピンキリではもちろんあるが、100万とかは普通にするとかしないとか。

 今回借りてきたのはレンタルなどをしているところからなわけだが、ぶっ壊したらヤバい。


「エスプレッソ、抹茶、ココア、それぞれで練習してて下さい」

「りょーかいせんせー」


 一対大人数はやっぱり苦手だ。疲れる。


「本部さん、見てて下さい」


 黒須さんが自信満々にそう言ってきたので見てみることにした。

 女子生徒に教えたのはリーフとハートの2種類。

 リーフの方が難しい。

 今黒須さんが描こうとしているのはどうやらリーフらしい。


「できました!」

「……完璧です」

「本部さんのおかげです!」


 黒須さん、ほんとやればなんでもできるな。

 なんなら僕より上手いぞこれ。


「黒須ちゃんすげぇ!」

「黒須ちゃん今度はハートやって!」

「わ、わかりました」


 普段は天使さんと見明さん、百合夏とばかり関わっている黒須さんも他の女生徒と会話するいい機会になっている。

 戸惑いはあるがいい傾向だな。


「見明さん、見明さんはメイド長として頑張って貰うことになるかと思いますので、頑張って下さい」

「ウチが?! なんで?!」

「接客業の経験もありますし、現場の流れを読んで動いてコントロールしてもらわないといけないので」

「天使ちゃんだろそこは」

「天使さんはクラスの学級委員長なので、調理現場とホールのとりまとめをしてもらわないと全体をコントロールしてもらわないといけないんです」


 天使さんであれば男女共に人気であり、現場の不満や人手の調整も上手くやってくれるだろう。

 シフト交代で揉めたりとかしても僕では対処できない。


「……いやでもなんでウチが……」

「面倒見良さそうですし、仕事できますし」


 この間の件でちょっと気まづかったが、これも仕事である。

 できる人がやらないと仕事は終わらない。

 上手く回すには優秀な人を使わなければならないのである。


「……わかったよ。本部がそう言うなら仕方ねぇな」


 やや不満そうではあるがやってくれるようで助かった。

 ジト目で睨んできているのでちょっと怖いが。


「見明っちゃん! 一緒に頑張ろっ!!」

「お、おう」


 天使さんが見明さんに抱きついてきて、見明さんは下を向きながらそう答えた。


 やっぱ見明さんには重荷だったかなぁ……

 いやでも見明さん仕事できるから大丈夫だとは思うんだけどな。

 でも自信なさげなんだよなぁ。


「たけ! 私は?! 私は何したらいい?!」


 百合夏が目を輝かせて聞いてきた。

 こいつ、暴走しないか心配なんだよな。


「受付。ずっと受付」

「それだけは嫌だぁ! メイドちゃんたちを拝めないじゃん!!」

「お前は絶対ヨダレ垂らしてそうだからメイド禁止」

「そんな事されたら発狂するよ? 良いわけ?」

「なんだその脅し」


 こいつ、目が本気マジだ……

 じゃれてるようによそおって僕の胸ぐら掴んるが、殺気を感じる。


「まあまあ本部くん。喜屋武ちゃんも一緒にホールでいいじゃん。元気あるし」

「美羽! 愛してるよっ!!」

「あはは。ありがと〜」


 ……天使さんの貞操が危ない気がしてきた。

 学園祭、ほんとに大丈夫だろうか?


 僕は頭を抱えながら他の班の打ち合わせに向かった。

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