第127話 レッツ冨次ハウス②
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
冨次先輩と2人で遅めの昼食だったわけだが、大変満足いく料理だった。
「にしても冨次先輩、洋食とかが好きなわりに漬物は好きなんですね」
「和食は基本嫌いだけど、漬物は昔から好きなのよ」
洋食と共に出された
「意外です」
「誰にも言わないでよね。なんか恥ずかしいし」
「そうですか? ギャップがあって良いと思いますけど。家庭的だし」
「そ、そうかしら? ありがと」
料理対決の時とかも海外の料理をメインで作っていたから、漬物が好きなのは意外中の意外である。
「でも、どうして和食は嫌いなんですか?」
「
冨次先輩も立派に反抗期してるんだな。
年頃の娘は
これも仕方のないことなのだろう。
「この離れも、親父と喧嘩して家を3回リフォームする羽目になったから、お母様に頼んで離れを建ててもらったのよ」
「……バイオレンスだなぁ……」
あの大きな家をリフォームしなければならないほどの戦いが父と娘で繰り広げられる家庭……
冨次先輩も色々とあるんだな。
「親父はいっつもうるさいのよ。小学校の運動会とかの写真に写ってる男子生徒を指さして「こいつはなんだ?!」とか怒鳴るし。この間の沖縄旅行だって本部を見て「お前! 男と沖縄行ったのか?!」とか言うのよ。いやいや、他にも男いるからって言っても「どう見たって女の子だろう」とか言って話聞かないし」
他の男、とはたぶん桃原と直人さんのことなんだろうなぁ。
まあ桃原は実質、男の娘だし、直人さんは場合によっては女装姿である。
勘違いされても仕方がない。
「「お前の彼氏なのか?!」とかいちいちうるさい。鬱陶しいったらないわ」
「それは災難ですね」
「なんで親父ってあんなに鬱陶しいのかしら? 意味わかんない」
いつもムスッとしている冨次先輩が今日はやけに元気である。
日頃のストレス溜まってるんだろうなぁ。
千佳や真乃香さんもたまに爆発したかのように愚痴を垂れ流すが、冨次先輩はその比ではない。
まあ、僕と同じく普段は一人でいる事が多いしどちらかと言えば一人が好きな僕らは、そう言った不平不満は溜まりやすい方だ。
だから冨次先輩の愚痴を言ってないとやってられない気持ちもよくわかる。
毎度毎度愚痴を聞かされるのは流石に精神的に来るが、今日はなんだか新鮮な気分である。
「冨次先輩の事が心配なんでしょうけど、ガミガミ言われたら嫌ですよね」
「そう! それよ本部! いちいちうるさいしねちっこいしすぐに「そいつを今すぐ呼んでこいっ!」とか言うのよ。暴走し過ぎて大変なのよ!」
過保護な父親の影響を受けるのを極端に嫌った結果、洋食好きな冨次先輩が出来上がったわけだ。
なんだかんだ可愛い反抗期である。
「てか本部、あんたの名前って
相当お怒りのご様子。
東京に来てから歳の近い女子に健と呼ばれるのはなんかむず痒いが、別に嫌ではない。
「わかりました。でも冨つ……留愛先輩の名前って留愛子、じゃないですか。それも嫌なんですか?」
「嫌よ。○○子って名前、古臭いもの。しかも親父が付けた名前だし」
「父親アレルギーですね。今度から商品買う時に「アレルギー一覧」よく見た方がいいですよ」
「大丈夫よ。見なくてもわかるから」
「重度のアレルギー反応ですね」
年頃の娘も大変ですな。
「……僕もいつか、結婚とかして娘が生まれて思春期になったら「パパの洗濯物と分けて」とか言われるんだろうなぁ」
「うわっきもっ」
「……冨、留愛先輩、それは男として傷付くのでやめてください」
一切躊躇の無い侮蔑。
あの冨次先輩からの侮蔑は人によってはご褒美にもなるのだろうが、生憎と僕にはそんな性癖は持ち合わせていない。
「まあ、男なんてみんな変態でしょ。仕方ないわよ」
「性欲という定義を考えるなら有性生殖の生物は全般変態ですし、留愛先輩だってホモ・サピエンスのメスに該当するので変態ですよ」
「そのムカつく笑顔止めなさいよムカつくわね」
我ながら捻くれて発言をしてしまったが全くもって大人気ない。
「てか、誰がそんなこと言ってたんですか?」
「親父がいっつも言うのよ。男はみんな変態だから気を付けろって」
お父さんの事は嫌いなのにそれは信じてるのか。
まあ、可愛い娘がどこの馬の骨とも知らん奴に穢されるのが耐えられないのだろう。
親バカという人種である。
「留愛先輩もわりと可愛いところもあるんですね」
「だからそのムカつく笑顔止めなさいよ。後輩のくせに」
なんなのよ全く。と大変お怒りの留愛先輩。
先輩をいじるのは結構面白い。
先輩なんだけど、なんか気が楽だ。
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