第124話 いざ、メイド喫茶へ③
「メ、メイドさん、ほんとに行かなきゃダメ?……すごく恥ずかしいしスースーする……」
「だいじょぶだよ桃ちゃん! 可愛いからっ!」
「そういうことじゃないってばっ!」
メイドさんに背中を押される形で僕と黒須さんの席に来たメイド天使さんとメイド桃原。
黒須曰く、この店のメイド服はクラシカルタイプと呼ばれたりするメイド服に該当するようだ。
クラシカルタイプの概念も多少人によるとは思うのだが、なんというか、1番健全なメイド服? と表現するのがしっくりくる。
スカートの裾もロングであり、露出している肌面積も顔と手だけの健全なやつ。
僕ら高校生がメイド喫茶をするならこのクラシカルタイプが妥当だろう。
他にもヴィクトリアンとかエドワーディアンとかギャルソンヌルックとか色々あるらしい。
というかそもそもメイドの種類にも色々あるとかでとにかく調べれば調べるほど細かくてややこしい。
「お嬢様、旦那様、どうでしょう? 御二方共、とても可愛らしくはありませんか? ……お待ち帰りしたいくらい可愛い……ぐへへっ」
おいメイド、本音が漏れてるぞ……
犯罪の1、2歩手前だから気を付けてくれよ。
とは思いつつもやはり2人は可愛かった。
天使さんはとくに金髪ロングに色白ということもあり、異国のメイド感が出ている。
さっきまでノリノリだったが、クラスメイトに観られるというのはいささか恥ずかしいようで照れている。
チラチラ僕を見るのやめてください可愛いなちくしょう……
桃原は天使さんよりもさらに恥ずかしがっていて、わずかに見える耳まで真っ赤にして下を向いてぷるぷると震えている。
桃原は一応男のため胸が無い、という事と恥辱に堪えてメイド服を着ているからか背徳感がヤバい。
桃原の肩幅はどうしても多少は男を思わせるはずなのだが、メイド服のエプロンの肩紐の柔らかいボリュームのフリルによって違和感はない。
なんなら女装した時の直人さんと同じくらい女の子にしか見えない。
「おふたりとも、とっても可愛いですよ。写真撮っていいですか?」
「しゃ、写真撮るの?!」
「参考資料に必要なんですよね? 黒髪のお嬢様。でしたら
もう料理そっちのけで撮影大会が始まってしまった。メイドさんも病的にノリノリだし。
しかも他のメイドさんも何名か増えてきてしまい、ただのコスプレ撮影会となった。
他のメイドさんたち、自分の持ち場とかあるんじゃないのか大丈夫なのかこの店。
「……本部さん、天使さんに感想とか言ってあげないんですか?……」
黒須さんが僕の耳元でひっそり話しかけてきた。
「何をどう言えばいいのか分かりません」
素直な感想を言えばそれはもちろん可愛いかった。
憧れの子がメイド服を着ているのだ。
そりゃ可愛いし見えて嬉しい。
ただ、僕が何かを言ったところで何かが変わるわけじゃない。
そういうのはイケメンでスクールカーストトップの男子が
「……というか、黒須さんも服についての感性がわかるようになってきたんですね」
「まあ、天使さんに色々と教えて頂いてますから」
まだまだ勉強中だと言う黒須。
しかしそんな黒須さんに僕は違和感を少しだけ覚えた。
僕がこういう事を自分で言うのもアレだが、黒須さんは僕の事が好き(正確には料理に依存してるだけ)である。
裸エプロンだとかで振り向かせようとしてまで一方的な依存関係を継続させようと必死な黒須さんが、なんで天使さんを褒めないのかと言ってくるのか?
「黒須さん、ずいぶんと天使さんと仲良いみたいですね」
「友だち、ですから」
「そうですか。それは良かった」
今の黒須さんは普通に女の子っぽかった。
その少し照れた黒須さんの表情に安堵もした。
前は人間にもあまり興味があるようには見えなかったし、服などの女の子っぽい趣味嗜好もなかった。
そんな黒須さんが今は少しだけ女の子らしく見える。
もちろん、女の子同士の友情というのを僕ら男は完全に理解するのは不可能である。
それは妹と従姉妹と暮らす僕はよく知っている。
けれど今の黒須さんと天使さんの友情は、僕から観てとても健全な仲良しに見える。
その事がとても安心できた。
「はぁ♡……はぁ♡……。やっぱり黒髪のお嬢様もメイド服、どうでしょうか? とても可愛いと思うのですが」
「透花ちゃんも一緒に着ようよっ」
「本部くん、本部くんも着てよ。なんでボクだけ着させられてるの?!」
「いや僕はやめとくよ。需要と供給の問題なんだ、これは」
「旦那様、大丈夫です。私がしっかりメイクもして差し上げますからはぁ♡はぁ♡。新しい扉が開けますからっ♡」
「健全な男子高校生でいたいので僕は大丈夫です結構ですから!」
その後、黒須さんはなし崩し的にメイド服を着させられて恥じらいながらも撮影会に参加させられていた。
僕はそれを眺めて珈琲を飲んだ。
料理は落ち着いた後に温め直してもらってその後みんなで食した。
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