第87話 いつかのお礼②
「今回作るのは豆腐チャンプルーです」
「いぇいっ!!」
「切って炒めて終わりです」
「早い!」
なぜかテンションの高い天使さんの合いの手も入りながらの調理。
天使さんも自前のエプロンを付けて一緒にキッチンに立つ。
「てか島豆腐って独特だよね」
「まあ、そうですかね、たぶん。僕は昔からこっちを食べ慣れていたので違和感無いですけど。
本土の豆腐よりも水気が少ないという特徴のある島豆腐。
麻婆豆腐を作る時にもよく使っていたが、比較的煮崩れしにくいと個人的には感じている。
味は本土のよりもたんぱく? な味だが普通に美味い。
「違和感っていうか、食べ応え? かな。こっちの方が満足感がある感じ。島豆腐で豆腐ハンバーグとか作ったら絶対美味しい」
「……ついに弟子がそういうアイディアを思いつくようになったか。わしもそろそろ隠居かのう」
「健おじぃちゃん、料理の途中ですよっ。一緒に料理しましょ」
「美羽さんや、朝ごはんはまだかのぅ」
「健おじぃちゃん、今はお昼ご飯作ってるんだよ」
「そうじゃったそうじゃった」
なぜか始まったおじぃちゃんとお姉さんのコント。
いや僕が始めたんだけどもさ。
「あ、島豆腐は先に入れて表面を軽く焼き色付けとくと煮崩れしにくいので楽です」
「お、本部くんが元に戻った」
「天使さんのノリが良かったから戻るタイミング逃しただけです」
「ノリのテンションで生きてるからねっ!」
そのウインク、グッときました。
「焼き色付けながら焦がし醤油と絡めるとこいつが主役になります」
「美味しそ」
スパムも入れるが、豆腐チャンプルーの主役はあくまでも島豆腐である。異論は認めない。
「あとは野菜入れて炒めて完了。島豆腐は余熱で熱が通るのでこの料理は楽でいいんですよね」
「味付けとか目分量だったけど、良かったの?」
「今回は僕と天使さんのふたりだけですし、だいたいいつもチャンプルーは適当です。まあ、少なめで入れていって味見しながらだいたいで済ませるのと変わりません」
母が生きていた頃に聞いたことはあったが「てきとー」と言われた。
共働きだった中でしっかりメニューを作っているわけではないし、僕も今では普段から料理を作る側としては「てきとー」はたしかにそうである。
極端に味が濃かったり調味料を間違えていなければ問題ないのである。
「ちょー家庭的」
「食べましょうか。午後はお出かけですし」
「うん!」
エプロンと
女の子だなぁ。僕なんて腰巻きエプロンだけだから楽でいいけど、女の子は大変だよな。
「「いただきます」」
泡盛入りの白米と一緒に豆腐チャンプルーを食べる。
味噌汁とかも作ろうかとは思ったが、出掛け先で何かしら食べるかもしれないし、そこまでたくさん食べておくと天使さんが困る可能性もある。
なので質素に昼ご飯は済ませる。
「なんかほっとするね。こういうの」
「そうですか?」
「うん。まったりしてて好きだな」
美味しそうに食べながら微笑む天使さん。
これでお礼になっているのなら、喜ばしいことだ。
「ちょっと夫婦っぽくない? なんかこう、特別じゃない日の夫婦的な?」
「ごほっ! ごほっ…………」
「だ、だいじょぶ本部くん?!」
「……あ……はい。……大丈夫です」
わざわざ駆け寄って背中を
無自覚にこういうことを言われるのは困る。
「はい、お水」
「ありがとう、ございます」
水を飲んで一息つけた。
……本格的に天使さんが
「天使さんの夫婦像ってこういうのなんですか? もっとこう、ワイワイきらきらしてそうですけど」
「それも良いかもだけどさ。ほら、あたしも片親だし本部くんはご両親居ないじゃん? なんかさ、そういうの憧れるんだよね。「普通の夫婦」に」
「そういうものなんですね」
おぼろげな両親の記憶しかないから、どうだったかもあまり覚えていない。
片親の天使さんだからそう思ったのかもしれない。
「結婚か……憧れるなぁ」
「天使さんは問題なく結婚とかできるでしょうね」
「も、本部くんはそういう憧れとかないの?」
「……どうでしょうね。今で精一杯ですし、未来を楽しむ余裕はないですからね」
やるべき事が多いし、日々の家事もある。
勉強をしろと叱る親もいないし、将来の夢はなんだ? と聞いてくる親戚のおっちゃんもいない。
今をこなすので精一杯だ。
沖縄のこの実家の手入れだって、百合夏に任せっきりになっている現状である。
明るい未来なんて、夢見る余裕は今の僕には無い。
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