第84話 The・水着回②

「た〜け〜」

「なんだ?」


 ビーチチェアを陣取る僕の横に来た百合夏。

 褐色肌にスク水、上にTシャツという色気のない格好にむしろ安心感を覚えた。


「いやぁ、いいなぁ」

「もうさっそくキャラがブレてるぞ……」

「百合百合してるの見てればそりゃまあこうなる。じゅるり。ぐへへ」

「犯罪はするなよ」

「大丈夫。見るだけだから視姦はセーフ」

「倫理的にアウトだ」


 喜屋武百合夏きゃん ゆりかは腐女子である。

 少なくとも一緒だった小学5年生までは百合を愛する奴だった。

 高校生となった今の百合夏ははっきり言って未知数の変態である。スカウターなら測定不能できっともう壊れてる。


「尊い姉妹、ロリたち、揺れる胸。良きかな良きかな」

「……ただのエロおやじなんだよなぁ、発言が」

「陽向さんだっけ? あの人なんて完全なる『合法ロリ』じゃん。どう見ても中学生」

「僕らより歳上だし、なんなら大人なんだよなぁ」


 大人であり人妻である。

 百合夏の性癖の歪みはますます酷くなっている。


「私も直人さんみたいな旦那さん欲しいなぁ」

「……百合夏が珍しく普通な事を言っているだと」

「女装が似合う旦那、よき」

「やっぱ普通じゃなかった。そしてなぜか安心した」

「桃原きゅん、可愛いなぁ。メス堕ちしてくんないかなぁ」

「…………それはちょっとわかる」

「ほほぅ。お主もわかりますかな」

「たまに頭がバグる時はある。可愛いは正義。これはこの世の心理」

健香たけ×かお……いや、香健かお×たけも捨て難い」

「おいそれはやめろ。お前の妄想とはいえ僕の大事な何かが穢される」

「減るもんじゃないしいいじゃん」

「減るんだよ男としての尊厳とかが」


 せめて僕が横にいる時にその発言はやめてくれ……

 妄想するなとはもう言わないからさ。


 百合夏曰く、腐の趣味は僕以外には話した事はないという。

 なのでこうして僕が帰省する度にこういう話をしたがるのは仕方がないとは思う。


 同じ趣味を持つ者が少ないと楽しみも苦労するのだろう。

 だが別に僕はそういった趣味はない。

 料理くらいしか趣味と呼べるものはない。

 なので基本は百合夏の趣味に付き合わされているだけだ。

 昔の連絡先は前に全消去してしまったので、付き合わされるのは仕方ない。


「てか天使ちゃん可愛すぎる。ツインテって二次元しか無理だと思っていたけど、これは反則すぎる。ロリでもないし胸も大きいのに似合うとか意味わからん」

「凝視し過ぎだろ」

「おやや、妬いてますかな。同性がジロジロ見るのと異性が見るのとでは勝手が違うからねぇ」

「お前ほんといつか捕まるぞ」

「大丈夫。たぶん」


 僕はなるべくみんなを見ないようにスマホで近所のスーパーのウェブサイトからチラシを調べ始める。


 今日の献立をまだ決めていなかったし、安売りしている商品を見ていると心が落ち着くようになった僕はいよいよ思春期男子ではないのかもしれない。


「真乃香さん、揺らすなぁ」

「……」

「黒須ちゃんもスタイルいいなぁ。ぐへへ。わわっ。際どいぃ」

「…………」

「見明ちゃん、エロいなぁ」

「………………お巡りさんこいつです」

「ち、違う! 冤罪だっ!」

「その一眼レフはなんですか?」


 こいつ、いつのまに一眼レフカメラなんて取り出したんだよ。いよいよヤバいぞこいつ。


「こ、こ、こ、これはただのオモチャです」

「ちょっとデータを拝見」


 中身を見てみると案外普通にみんなが楽しそうにしている写真たちだった。

 なんなはカメラ目線でピースしてたりする写真もある。

 同意を得て撮影しているのであればギリギリ犯罪ではない、かな。うん。


「今回は見逃してやろう」

「ありがてぇありがてぇ」

「お前のキャラはどっから出てくんだよ」

「あ、天使ちゃんの写真欲しい? ちょー可愛いけど」

「……いい」


 一瞬迷った自分が憎い……


「谷間が強調されてて中々ですぜ」

「やめろ」


 やっぱり自分はまだ思春期男子だったと反省した。

 僕は百合夏から逃げるように飲み物を取りに行った。

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