第81話 鳴り響く太鼓。
「来てる来てる!」
南国の夜空を震わせる大太鼓の音。
お祭り騒ぎな住民の賑わう歓声。
彩りを加える
「旗持ってる人がいる」
「あれは
天使さんがスマホ片手に撮影をしながら興味津々に聞いてきた。
「くまちゃん、なんかこわい」
「抱っこしたげる」
「怖くないですよ、美心さん。大丈夫です」
見明さんにしがみつく美心さん。
大太鼓や締太鼓の音が小さな体に響いて怖いようだ。
姉妹っていいな。尊いな。
「そいえば私もちっちゃい頃怖かったなー。太鼓の音が凄くて」
「千佳は僕にくっついてたな」
「おにーちゃんだって小さい頃はどうせ父さんにくっついたりとかしたんでしょ。おにーちゃんぶらないできもい」
「兄離れか」
さすがに中学生にもなると妹も変わってしまうのだなぁと寂しさを覚えた。
昔はあんなにくっついてきたというのに。
時が経つのは早いものだなぁ。
「本部さん、私も怖いので密着していいですかというか抱き着いていいですかそして抱き締めて下さい」
「全く怖がってないですよね? 僕が作ったお餅食べながら平気ですよね?」
「いえ、ちょーこわいですはい」
「伝わってくるのは恐怖心じゃなくて下心だけなんですが」
「健きゅ〜ん、私も怖いー」
「酔っ払いは静かにしてて下さい」
ただでさえ沖縄の夜は暑いのに真乃香さんがくっついたら余計に暑くなる。そして酒臭い。
「太鼓も大きのと小さいのがあるのね」
「小さい方の太鼓は締太鼓と言います。片面張りのさらに小さいパーランクーという太鼓もあるんですよ。タンバリンサイズくらいの」
べつに僕も専門的な事を知っている訳では無い。
小学校低学年の頃はパーランクーを叩いていただけだ。
「本部くんは大太鼓と締太鼓のどっちが好きなの?」
「やっぱり大太鼓ですね。演舞の華ですし、音や叩いた時の手応えとか気持ちがいいです。女性でも大太鼓をやりたがる人も一定数いますし、人気ですよ。重たいけど」
締太鼓は軽い分音も軽い。
大太鼓は重厚な音で迫力がある。
沖縄人の男子なら大抵憧れると言っていい。たぶん。
「踊り子って男子も女子もいるんだね。ボクがやるなら踊り子がいいなぁ」
「
「ど、どっちもって言うのは、太鼓持ちも踊り子もって意味かな? 本部くん」
踊り手はエイサーの基本であり、エイサーの基本のリズムや動きを把握するためのものである。
この基本を覚えないと太鼓は持たせてもらえない。
女手踊は男手踊の力強い踊りとは違い、しなやかな踊りの中に手先の緩やかな動きで踊りに華を添える踊りである。
「うわっ! なにこの人?!」
「あら鈴ちゃん、怖いの? 可愛い」
「ち、違うし!」
「サナジャーですね。観客を盛り上げるピエロ? みたいな役割です。チョンダラーとも言ったりしますけど」
デーモン小暮閣下メイクをコミカルにしたようなメイクを顔に施して観客を盛り上げる踊りをするサナジャー。
意外とこのサナジャーも人気があったりする。
クラスのお調子者はとくにやりたがる。
「さなじゃーさん! 写真撮ろ!」
陽向さんが楽しそうにピースをして直人さんが写真を撮る。
撮り終えると手を振りながら再び踊りに戻るサナジャーは観ていてとても愉快である。
陽向さんのテンションも爆上がりで直人さんとふたりで撮った写真を見て笑っている。
「本部くん、さっき見た動画と衣装違うけど、なんの違いなの?」
「地元の青年会によって衣装は違ってきますね。各青年会で個性が出てて、どこの地域のエイサーを見てても飽きないんですよね。踊りも違いますし」
「そうなんだね。楽しみだな」
女手踊を楽しそうに撮影する天使さん。
カメラ越しに目が合った踊り子に手を振ったりもしている。
天使さんが
どうせすぐに見れるのに、その姿を僕も早く見たくなった。
しかしそんなささやかな妄想も、愉快に鳴らされた指笛で吹き飛ばされた。
なので僕も指笛を吹いてエイサー観戦に意識を戻した。
東京に住んでからはしていなかった指笛も、違和感なくできる自分にどこか安心感を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます