第80話 黒歴史って見せたくないよね。
「ラフテー美味しい」
「お餅おいしー」
「泡盛美味い」
「くまちゃん、ばやりーすおかわり」
お盆2日目ナカビ。
本部家でまったりする客人たち。
美心さんもバヤリースを美味しそうに飲んでいる。
天使さんはラフテーを食べて喜んでいる。
ご先祖さまと一緒に食べる為の持て成し料理のいくつかを天使さんにも手伝ってもらったのだが、天使さんは結構沖縄料理が口に合うらしい。
「ひーちゃん、お餅食べすひてリスみひゃいなってるわよ」
「おいひーよ」
今日はなぜか女装している直人さん。いや、今は「三宮なお」だったか。
陽向さんと義姉妹デートをしていたらしい。
楽しそうでなによりだ。
「健きゅ〜ん、エイサーまだぁ?」
「暑いので抱きつかないで下さい暑い」
大人組の真乃香さん、なおさん、顧問の先生は泡盛を飲んでべろんべろんである。
なんでも、メイグルトなどの乳酸菌ドリンクと泡盛を1:1で割って飲むのが美味いらしい。
クセの少ない残波白は泡盛でも比較的に度数が低く飲みやすさもあって飲みすぎているらしい。
おい保護者、しっかりしろ。だらしないぞ。
「本部くん、なおさんってなんか色っぽくない? ボクだけかな? そう感じるの?」
「あの人はたぶん人外ですからマイノリティではないと思います。大丈夫です」
なになおさんにドキドキしてるんだよ桃原。
やっぱりあれか、直人さんのわけわからん魅力は男の娘的にも魅力的に映るのだろう。
いずれは桃原もそっちの道に行くんだな。うん。わかるぞ。僕は応援するよ。可愛いは正義だ。
「本部、ラフテーのレシピ今度ウチに教えてくれねーか?」
「いいですよ。あ、でもラフテーは泡盛も使う料理なので、向こうでは難しくなるかもです」
「まじか」
「まあでも、ラフテーと角煮の違いは主に皮つきの違いなので、泡盛の代わりに日本酒で代用しても似たような味には出来ますから、大丈夫かもです」
「お前、応用までできるのか、やるな」
「専業主夫ですから」
「出た、本部くんの謎の専業主夫マウント!」
「天使さんやめて、決めゼリフ言いづらくなるから」
持ち上げるのやめてください恥ずかしくて死んでしまいます。
ご先祖さまと一緒に僕も海に行ってしまおうか。
……数年後には黒歴史として天使さんに笑われているかもしれない。
天使さんに笑われたら死ねるよほんとに。
「黒須さん、ずっと食べてるけど、食べ過ぎじゃない?」
「本部さんの料理をたくさん食べておかないと死んでしまいますので。食べれる時に食べたい。不意に死んでしまっても後悔の少ないように生きたいのです」
「重い。重いから。いつでも食べれるからそんなに一生懸命食べなくてもいいから。健康的にいてくれよ」
「そ、それは愛の告白っ?!」
「いや違う」
な、なんだろう、一瞬周りの体感温度が5℃くらい下がった気がする。
すんごい冷や汗かいた。
いやまあクーラー付けてるけどもさ。
「冨次先輩、沖縄そば気に入ったんですか?」
「ま、まあ、そこそこ」
いつもは料理について何かしら突っかかってくる冨次先輩も大人しく沖縄そばを啜っていた。
沖縄そばの出汁は沖縄のスーパーなら大体どこでも売っているが、今回は自分で作ったものだ。
東京の人の舌に合わせて少しだけ味の濃さを変えてある。
フレンチやイタリアンが好きな冨次先輩も気に入ってくれたのなら僕の勝ちである。
そっぽ向きながらも食べ続けるあたり、胃袋だけは素直なのだろう。
「おにーちゃ〜ん。そろそろっぽいよー」
「そうか」
「エイサー楽しみ」
天使さんもエイサーを見たくてそわそわしている。
エイサーは本来、亡くなったご先祖さまに楽しんでもらうための踊りなのだが、生きてようが死んでようが楽しいものである。
沖縄の陰キャでもエイサーは好きな人がわりと多い。
陽キャっぽさとはまた違った魅力があるのだろうと勝手に分析している。
と言っても僕の偏見ではあるが。
「そいえばおにーちゃん、小学生の時のエイサーで大太鼓やってたよね」
「そうなの?」
「まあ、昔の話ですね」
「本部、あんたうちの学校の学園祭でエイサー踊りなさいよ」
「無理ですよ会長、無茶ぶりしないで下さいよ……」
このロリ生徒会長、今の僕がモブ陰キャだという事が理解できていないな。
東京では僕は無力なのだ。
エイサー仕切って踊りを教えるとか無理。
「千佳さん、本部君の小学生の頃の写真とか残ってないのかしら? 見てみたいわ」
「いや見なくていいですから」
「ありますよー」
「おい千佳やめろ」
仲道副会長が悪ノリしてきやがった……
なんですぐに昔の写真とかみんな見たがるの?
やめてくださいよほんと。
「あ、太鼓の音が響いてきた。行きますよ皆さん」
「お茶を濁そうとした」
「でもほんとに聞こえるね」
エイサーに救われた。
いやまじ感謝だ。
みんな重い腰を上げていそいそと外に出ていく。
「楽しみだね」
天使さんがウキウキではしゃいでいた。
うっかり惚れそうになった。
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