第52話 人間って、祭り好きだよね。

 時刻は16時半を過ぎていた。


「対決のルールは、前菜・メイン、スープの3品を30分で作ること。そして作業は2人で行う。これは僕と天使さんが部活への勧誘をされているので、冨次先輩たちにも同様に2人で調理をお願いします」


 意識高い系な感じの高飛車な冨次先輩。

 そしてまったり系の部員2人。


 キッチンは大抵が狭い。

 コンビネーションがなければもたついて際どい火加減の調整に失敗するかもしれない。

 それだけシビアな状況でもパフォーマンスを発揮できないなら一流のフェフとは言えないだろう。知らんけど。


「それと、メインとなる料理には卵を使っている事」

「料理の基本ね」


 あらゆる食に通ずる卵。

 お菓子作りでも使うし、あらゆる国で食されている。

 多種多様な食材であり料理の基本であり、メインにもサブにもなる万能の食材。


「も、本部くん……あたし、本部くんの足引っ張っちゃわないかな」

「問題ないです」


 さっきまで意気揚々と喧嘩を買っていたのに、ここに来てちょっとおどおどしないで下さいよ天使さん。


 天使さんには日頃から料理は教えているし、調理ペースも把握している。


「今回は新規料理を教える訳ではないですし、フォローもしますから」

「でも、大丈夫かな……」

「弟子、なんでしょう?」


 弟子が買ってしまった喧嘩で、僕はレタスが買えないのである。

 多少はこの機会に成長してもらわなければ割に合わない。

 免許皆伝して師匠離れしてくれたら僕は前の生活に戻ることも出来る。


「うん。がんばる!」


 やる気を取り戻してくれた天使さんは再び拳を握りしめた。


「そして、審査についてですが、作った料理は職員室に残っている先生方に投票して頂く方式にします。尚、その際はどちらが作った料理かは先生方にはわからない状態で判断してもらいます」

「問題ないわ。わかりきっているもの」


 タッグマッチであるにも関わらず余裕らしい。

 この選択は間違っていただろうか。

 蓋を開けてみるまではわからない。


「それでは冨次先輩と組まない方の部員さん、ストップウォッチでの時間管理をお願いします」


 各々がエプロンなどの準備を済ませ、いざ料理対決。


「おいおい天使ちゃんが料理対決するらしいぞ?!」

「てかあの人って2年の冨次さんじゃん。対決すんの?」

「去年1年生のミスコン取った冨次さんと今年の1年生ミスコン候補の天使さんの料理バトルか」

「料理対決とかウケる。テレビ企画みたい」

「てかあの男誰?」

「いかにもモブ顔だな」


 さきほど険悪な空気で廊下を歩く僕らを見られていたからか、ギャラリーは少しづつ湧いている。


 家庭科室という場所の特性上、そんなに生徒が頻繁に近寄る事もないはずなのだが、どうやら冨次先輩はそこそこ人気のある生徒らしい。

 加えて天使さんである。

 ギャラリーが湧くのは仕方ないのかもしれない。


 てか早く帰れよ……

 こっちはスーパー行きたいのにさ。


「天使ちゃーん! 頑張ってぇ!!」

「天使さんのエプロン姿可愛いなぁ。オレの嫁になんないかなぁ」

「少なくともお前の嫁ではないな」

「うるせっ」


 天使さんのファンが声援を送ってくれている。

 やはり天使さんは人気がある。


「ど、どうしよ本部くんっ! 人がいっぱい……」

「そうですね……正直僕もかなりやりづらい」


 幸い、避雷針的な役割となっている天使さんのお陰で僕はほんとに「モブ」扱いだ。

 それはそれでいい。慣れてるから。

 だけど天使さんが緊張し始めている。


「余裕なさそうね」


 一方優雅に微笑む冨次先輩。

 てか人気あるならファンから部員候補見繕えよ……


 ああ、なんでここまで大事おおごとになってしまったのか。

 いや、これも僕が教室で弁当を食べてしまった事から結局始まってしまっていることなのだろう。


 普通の「モブ」なら、こんなイベントの渦中に巻き込まれる事なんてないはずなのに。



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