第50話 喧嘩を買うヒマあったら特売商品を買え。
「本部くん、今日はスーパー寄ってくの?」
授業が終わり放課後。
廊下で駆け寄ってきた天使さんに声を掛けられた。
「はい。今日はレタスが安いので」
「なるほど」
天使さんも買い物をするらしく並んで廊下を歩く。
黒須さんには夕飯時である18時以降に来るように言ってある為、1度家に帰っている。
毎日料理を食べられるからか、今日は機嫌がよかったしベタベタして来なかったので助かっている。
「そういえば、この間看病して頂いたお礼に天使さんに何かご馳走したいのですが、よければ好物と都合のいい日にちなど教え」「見つけたぁぁぁあっ!!」
「「!!」」
突如背後から鬼の形相で迫り来る女子生徒。
真っ赤な長い髪をポニーテールにしているが、荒れ狂っているのかポニーテールも暴れているように見えた。
制服にエプロン姿であり、整った顔で普通にしていれば美人なのだろうが初対面で怒鳴りつけるような勢いで怖い……
「……」
見つけたと言って僕と天使さんの目の前で息を切らして止まっているので、僕か天使さんの知り合いなのだろうけれど、生憎と僕はこの人を知らない。
隣で僕と同じくぽかんとしている天使さんもどうやら知らないみたいだし、なんなのだろうか。
顔の広い天使さんが知らないという事は上級生の可能性もある。
「あの、何かご用ですか?」
「
「すみません。これから買い物なので無理です」
「逃がさんっ!!」
振り切って逃げようとしたら手首を掴まれて睨まれた。
……この状況では調理部に興味があったとしても入部したくない。そもそも入部する気なんてないが。
「ぶ、部長〜……」
赤髪女の背後からヘロヘロになりながら走ってきたさらなる増員。
いよいよ面倒な事になった。
「本部健、あんたを調理部にスカウトするわ!」
「いや、だから嫌です」
困惑する天使さん。
安売りのレタスを買いに行けなくて困る僕。
なんか焦っている赤髪部長。
「あんた、料理得意なんでしょ? 入ってよ。てか入れ」
「……そう言われて喜んで入れるわけないじゃないですか」
「あ、あの、えっと、お名前は?」
天使さんが助け舟としてとりあえず場を取り持ってくれようとしたのか名前を聞く。
そうですよね。どちら様ですかって話ですよね。
「私は調理部部長で2年の
腕を組み高飛車な態度で名乗る冨次先輩。
苦手なタイプだなぁと思っていたら再び手首を掴まれて引っ張られた。
「じゃ、自己紹介済んだし行くわよ」
「いやだから行きませんって」
「あの、本部くん嫌がってるから」
「そうだ。あんたって
「え、いや、あの」
「どうして、そんなに入部させたいんですか?」
初対面でこの対応は明らかに強引すぎる。
流れ的には調理部存続の危機だから入部希望者を集めようとしてるとかそんなとこなのだろうけど。
「僕も天使さんも家の家事をしなければなりません。料理においても家事の一部です。調理部に入らなくても自然と料理の腕は上達しますし、こちらとしては入るメリットがありません」
てきとうな入部メリットを早々に潰す。
こうしている間にもレタスは売り切れてしまうかもしれない。
なるべく早く終わらたい。
「手抜き料理なんて料理じゃないわ。私が本当の料理を教えてあげる」
ムキになった冨次先輩が引っ張る手に余計に力が入ってしまった。
「本部くんは手抜き料理なんかじゃ、ないです」
空いていたもう片方の僕の手を掴み静かにそう呟いた天使さん。
その天使さんの言葉を聞き、立ち止まる冨次先輩。
互いに睨み合う姿、そしてその間に挟まれている
どうしてこうなった……
「なら、料理対決よ。あんたたちが対決で勝ったらスカウトは諦めてあげる。そのかわりこっちが勝ったら入部してもらうわ」
「いいですよ。本部くんの弟子として、負けられませんから」
「弟子、ねぇ」
あのぉ、天使さん。勝手に話が進めるのやめてもらっていいですかね……
レタスが……
てかいきなり料理対決申し込まれて勝たないと諦めてくれないとかその辺の
「本部くん。がんばろ!」
ぎゅっと拳を握り締めてなぜかやる気満々な天使さん。
こういう時、僕みたいなモブなんかは流れの力に抗えない。
だから理屈を
だが、天使さんが買ってしまった喧嘩に勝たなければもう帰れないのだろう。
「はぁぁ……わかりました」
こうなったらやるしかない。
「天使さん。さっさと終わらせてレタス買いに行きますよ」
「うん! ……ってどんだけレタス買いに行きたいの本部くんっ!!」
部活よりレタスの方が優先でしょそりゃ。
お野菜って高いんだぜ?
「専業主夫の本気を見せてあげますよ。冨次先輩」
「ふんっ。言うじゃない」
見下すようにほくそ笑む冨次先輩。
僕はモブだが、専業主夫だ。
専業主夫を舐めてもらって困る。
「行きましょうか」
そうして僕らは調理室へと向かった。
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