第48話 一方その頃。

「あれ? 天使ちゃん、今日は本部と一緒じゃないのか?」

「あ、うん。用事があるって言ってたし、今日は1人でお買い物だよ」


 見明っちゃんと2人でスーパーへと歩く。

 この頃はもうすっかりスーパーに行くのも普段の行動パターンとなりつつある。


「夫婦水入らずじゃないとは」

「ふ、夫婦とかじゃないし……」


 そりゃまあ、ふ、夫婦とか憧れるけどさ。


「この間本部の看病したんだろ?」

「うん。メッセ送っても返事が無くて、いつもなら家事しててもなんだかんだ返してくれるから気になって電話したら体調悪そうだったから」


 本部くんは要領がすごくいい。

 料理する時も、段取りとかすっごいちゃんとしてて無駄がない。

 あたしはまだそんなに早くできないし、ひとつひとつの作業でいっぱいいっぱいな時がほとんどだ。


「じゃあ通い妻だな」

「もう! 見明っちゃん。恥ずかしいからやめてよ」

「と、言いつつも満更でもない天使ちゃんなのでした」

「……見明っちゃん」

「はいごめんなさ〜い」

「絶対反省してないやつだし」


 あたしは本部くんの事が好きだ。

 それはもう自覚しているし、たぶん見明っちゃんにはバレている。たぶんってか、バレてる。

 中学から一緒だし。


「ウチとしては、天使ちゃんが本部とくっ付いてくれれば美心が取られる心配がないんだけどな」

「ま、まさか美心ちゃんが本気なわけないと思うけど……」

「ウチだってそうであってほしいさ」


 でも世の中、10歳差とかで結婚したりする人達もいるし、可能性を考えると……


「でも実際どうだったんだよ? 看病してる時は実質ふたりっきりだったんだろ?」

「う、うん」

「ほれほれ、話してみっ」

「…………お嫁さんみたいでちょっと楽しかった」


 もちろん、本部くんが体調不良で苦しそうにしているのは見ていて辛い。

 でも、あたしが作ったお粥食べてる時とか、眠ってる顔見てて幸せを感じた。


 こうして、ずっと傍に居られたらなって、思った。


「ほほう。彼女ではなくお嫁さんとな」

「…………なんというか、この人の為に、尽くせたらなぁ……とか」


 恥ずかし過ぎて顔が熱い。

 自分で言ったんだけど、やっぱり恥ずかしい。


「天使ちゃんはそういうことちゃんと乙女なんだよなぁ」


 ニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込む見明っちゃん。

 悪意は感じないけど、ほんと、悪い顔だ。それでいて楽しそう。

 ……あたしだって、結構いっぱいいっぱいなんだけどな。


「お、噂の本部からメッセ来た」

「っ?!」


 小悪魔的な顔を浮かべる見明っちゃん。

 いや、見明っちゃんも料理教えてもらってたらするんだから、そりゃ連絡先くらい交換しててもおかしくはない。うん。


「ほほぉ〜」

「……」


 絶対あたしの反応見て遊んでる……

 だけどそんなお遊びな一つ一つの仕草すら、今のあたしには振り回される。

 初めての恋なのに、見明っちゃんは手厳しい。


「ふむふむ。そうかそうか〜なるほどなぁ」

「…………勘弁して下さい…………」

「ん? なに? 気になる?」

「見明っちゃん知ってる? そーいうの、愚問って言うんだよ」

「なら白状したまえ〜。天使ちゃんは本部の事が好きか?」

「………………好き………………」


 胸が締め付けられる。

 本部くん本人に言ったわけでもないのに。

 ただ胸の中の気持ちを言葉にしただけでこんなにも熱くて苦しい。そしてなにより恥ずかしい。


「可愛すぎて砂糖吐きそ」

「……なにその暴言」

「まあいいだろう」


 あたしの羞恥心で真っ赤に染まった顔を見て微笑む見明っちゃんは悪魔だきっと。


「本部がさ、看病してくれたお礼に何かしたいんだけど何がいいのかってさ。料理を振る舞うくらいしか浮かばないだけどってさ」

「べつに、お礼とかいいのに」

「とか言いつつすっごい嬉しそうな顔してるぞ」

「……まぁ、そりゃね」


 誰かの為に真剣に料理を作ってる横顔。

 それが好きになった理由でもある。


「デートとかしたいって思わないのか?」

「……したい、けど。でも、本部くんが料理してるとこ見るの、好きだからなぁ」

「天使ちゃん、顔がふやけてるぞ」


 また恥ずかしい顔を見られた。

 恥ずか死ぬ……


「ふんっ」


 緩みきった表情筋に力を入れた。

 こんな顔を間違っても本部くんに見られたくない。


「なにそれ変顔?」

「違いますっ!」


 結局、スーパーまでの道のりでひたすら見明っちゃんにあたしはからかわれた。

 それでも、本部くんの話ができて楽しかった。

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