第40話 天使家とのランチ②

「いや〜。それにしても、本部くんが料理教えてくれてほんとに助かってるわ」


 料理を食べ終えて、さらにスイーツを注文したため現在はスイーツ待ち。

 僕はもうお腹いっぱいだったので珈琲だけにした。


「まあ、僕も成り行きで教えることになりましたが、天使さんは飲み込み早くて教えてて僕も楽しいです」

「そ、そうかな」


 師匠である(自らは名乗ってない)僕から褒められた為か嬉しそうに笑いつつほんのりと顔を赤らめる天使さん。


「これからも末永く美羽をよろしくねぇ」

「ママ! なんかそれ恥ずかしいんだけど?!」

「……そうですね」


 末永く、か。

 人は唐突に死ぬ。

 だから、末永く誰かと一緒にいたりできることは、良くも悪くも良い事なのだろう。


 かすかに覚えている母の口癖は「死ななかったら大丈夫」だった。

 親や兄妹とは長い付き合いになるんだろうって、少ない親戚たちを見ていてそう思っていた。

 それこそ末永く。


 今の僕の隣に、末永く居てくれる誰かがイメージできない。


「あ、すみません。ちょっと電話に出てきます。うちの保護者からなので」

「うん。出ておいで」


 僕は席を外し真乃香さんからの電話に出た。

 僕の予想が正しければ、今出ておかないと大変なことになる。


「もしも」『健きゅぅぅぅん!!』


 よし。緊急事態ではない事が確認できた。

 真乃香さんは平常運転だ。


「……なんですか?」

『健きゅんからの愛の言葉を聴きたい』

「唐突ですね。頭でも打ちましたか?」

『なんかいつもより辛辣っ!』

「出張中の昼休みにわざわざ電話掛けてくるより休憩してた方がいいでしょうに」

『眠ったりするより少しでも健きゅん成分を補給したいのです私はっ!!』


 前にもこういうことはあった。

 なんでも、僕と2日会わないと禁断症状が出るらしい。


 僕自身はその禁断症状を見たことはないが、千佳曰く悪魔に取り憑かれたかの如く暴れるらしい。

 マスカラが涙で流れ落ち、それは黒い涙となってこの世の終焉を感じるほどの恐怖だったと千佳は僕に語った。


「すみませんが、今は友達とお食事中なので後で掛け直していいですか?」

『私より、ほかの女を取るのね……しくしく』

「なぜ女性前提」

『だって健きゅんの友達って女の子しかいないじゃん!!』

「いや、男子だっていますし」


 駄々っ子モードの真乃香さんはかなり面倒だ。

 下手したら長時間天使さんたちを待たせる可能性がある。

 あとでどうにか構ってあげるしか方法はない。


「真乃香さんが帰ってきたら、好物作ってあげますから大人しくしてて下さい」

『ほんとにっ?! やったぁー!! 真乃香お姉ちゃん仕事頑張る!!』


 ちょろいな。


 どうにか駄々っ子モードを収めることに成功して真乃香さんはルンルン気分で電話を切った。

 まあ、どのみち作るつもりだったので問題ない。


「すみません」

「いえ。いいのよ。保護者さんだって色々と心配だったりするでしょうし」

「まあ……そうですね」


 天使さんも席を外していたのか今は凛さんとふたりだけである。なんか気まづい。


「ロールキャベツ、美味しかったわ」

「ロールキャベツ?」


 さっき凛さんが食べていたのはパスタだったはず。

 いきなり過ぎて話が見えない。


「この間美羽が作ってくれたロールキャベツよ。本部くんが教えてくれたんでしょう?」

「ああ。はい。そうですね」


 そういえば前に教えた事があったな。

 その後にアレンジメニューも教えたりした。


「ロールキャベツってね、私が旦那に作ってあげた最初の料理でね、なんか色々と昔の事を思い出してね」

「懐かしくなる時ってありますよね」

「そうね」


 窓の外を眺める凛さん。

 その思い出がどうだったのか、僕は知らない。

 ただ、失ったものをみているのだと、それだけはわかる。


「あ、そうだ。美羽の誕生日、8月18日だから、覚えておいてあげてね?」

「……はい」


 ふと見ていた外から目線を僕側に戻して凛さんはそう言った。

 なぜ急に教えたのかよくはわからなかった。


「ごめんね〜本部くん。てかママと何話してたの?」

「それは内緒よね〜? 本部くん」

「なにそれずるい!」

「あはは……」


 その後、なぜか天使さんは僕の隣に座らされて凛さんが写真を撮られた。

 お食事会は終始天使家の雰囲気が心地よくて楽しかった。

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