第39話 天使家とのランチ①

「本部くーん!」


 待ち合わせ場所の駅前にやってきた天使親子。

 天使さんが僕を見つけて手を振りながら走ってくる。


「天使さん、こんにちは」

「こんにちは!」


 眩しい笑顔が尊かった。


「貴方が本部くんね。いつも美羽がお世話になってます。母の天使凛あまつか りんです。今日は来てくれてありがとう」

「いえ、こちらこそありがとうございます」


 どうみてもアラフォーに見えない。頭がバグる。

 服装自体はシックで大人な雰囲気をもちろん感じる。

 だがなぜか天使さんの隣にいるだけで天使さんの姉にしか見えない……

 スタイルのよさもあいまって見た目は20代後半。


 ……そして天使さんの天使さんは母親譲りという事がDNAレベルで証明された。

 大きい……


「さぁ、さっそく行きましょ」

「ママ、楽しみにしすぎ」

「そりゃそうよ〜。私今日は美羽の未来の旦那様候補とお食事するから有給取りますっ!って言って休んだんだもの〜」

「ちょっ! ママっ!」


 あ、やっぱりちゃんと天使さんのお母さんだな。

 なんか雑談してる時のトークのノリとかテンション感がこころなしか似てる。


 天使家の日常を垣間見てなんかほっこりした。


「もうママったらー。ごめんね本部くん」

「いえ。楽しそうでなによりです」

「そうよそうよ。楽しいのが1番」


 駅前から歩いて5分。

 その間ひたすらはしゃぐ凛さん。

 学校では見せない天使さんの表情も見ていて面白い。


 なぜ僕は今ここにいるのだろうかとすら思える。

 このふたりがご飯食べてる動画だけで全部完成してる気がする。

 親子って良いもんなんだな。


「私、このお店気になってたのよね」

「ママね、本部くんとのランチの日取り決めてそっこーで予約してたんだけど、ちょー仕事早すぎた」

「アポ取りと現場のセッティングは早い方がいいの。好機は逃さない」

「どんだけ楽しみだったの」

「美羽だってそうじゃない〜。今日は何着てこうかって姿見の前でひとりファッションショーしてたのよ本部くん」

「そ、そりゃ最低限のマナーとしてあるじゃん?!」

「ふふふ。そうね。そうよね〜」


 顔を赤くして怒っている天使さん。

 わかりますその気持ち。

 千佳に服装をよく怒られる僕としてはやはり最低限のマナーは大事ですよね。うんうん。


 店に入って席に案内された。

 喫茶店らしく珈琲の香りがやんわりと漂う。

 シアトル系カフェのようなオシャレ全開というわけではない。しかし落ち着く内装やデザインが安心感がある。


「このお店、3号店らしいのよね」

「チェーン店とかフランチャイズって感じじゃないのに、喫茶店3号店目って凄いね」

「有名作家さんも来たりするらしいの」

「有名作家さんって?」

「楠木じゅん」


 僕と天使さんは目を見合せた。

 楠木じゅんは直人さん。

 世間一般では女性説がささやかれる有名作家。

『女装探偵シリーズ』などの有名作品を執筆していて映画化などもしている直人さんなわけだが、メディアなどの顔出しはしていない。


 男女共に共感を得る小説を書く楠木じゅんはコミカルながらもミステリアスな感性はやはり小説家としてのカリスマ性を感じる。


 そしてそんな楠木じゅんの正体を僕と天使さんだけは知っている。


「あらどうしたのふたりだけ通じあってるみたいな雰囲気〜。私だけ除け者じゃない」

「いえ、この間楠木じゅんの作品の話を天使さんとふたりでしたなぁと思っただけですよ」

「そ、そうだよママ」


 タイミングよく注文した料理が届いて3人で食事を始める。


「「う〜ん。美味しいぃ」」


 料理を口に入れ、ほっぺに手を当てて幸せそうな顔をする天使親子。

 そもそも似てる顔で、そんな顔をされたらそれだけで今日は来た甲斐があった。


 親子ってこんなに似るもんだな。

 美味しいものを食べた時の笑顔なんて生き写しみたいだ。


 料理を作った人も嬉しいだろうな。


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