第37話 抱え込み過ぎ案件。
一学期中間テストが終わった。
「…………しんど…………」
明日土曜日は千佳が中学の林間学校で不在。
真乃香さんは出張で帰ってくるのは来週の火曜日。
そして明日土曜日は天使さんたちとのランチ。
その後の夜は黒須さんに料理を作る。
……テスト勉強より大変だな。
「も、本部くん。今からスーパー寄るの?」
「ああ、天使さん。お疲れ様です……そうです。今からスーパーに行きます」
「う、うん」
天使さんの反応がぎこちない。
絶対なんか犯罪やらかしてるとか思われてる。
信じて下さい無実です。僕はなんもしてません。というか被害者です。殺されかけたんです助けて下さい。
「本部くんは、その……黒須さんとお付き合いとか、してるの? ……」
歩きながら視線を地面と僕にと忙しい天使さん。
不安げな表情はおそらく自分が料理を習っている師匠が犯罪者である可能性があるからだろう。
どうにかその誤解を払拭しなければならない。
「違いますよ」
「そ、そっか…………良かった…………」
天使さんはひとまず安堵したのか小さくそう呟いた。
しかし苦し紛れの言葉と捉えられかねない。
付き合っていない証拠なんて出せない。
現状証拠となる黒須さんストーキング生活は動かしようがない事実であるからだ。
だが、黒須さんの一件はどこまで話したらいいのだろうか?
黒須さんの愛が重いんです助けて下さいなんて言えない。
味覚障害の話だって簡単にしていい話ではないだろうし、そもそもクラスの生徒は黒須さんが味覚障害であるとはおそらく知らない。
知る人が黒須さんを見れば完全に地雷案件である。
天使さんを巻き込むのはよくない。
天使さんのスクールカーストにも関わってくる可能性があるのだ。
「色々とあっ」「大丈夫だよ。本部くん」
言い訳にもならない言い訳を言おうとして、天使さんにそれは遮られた。
「あたし、信じるから」
そう言って僕に微笑みかけた天使さん。
なんの根拠もない。
ただの否定の言葉だ。
いや、そもそも犯罪者とか言われてるんじゃって事自体が被害妄想だろう。
僕も少しおかしくなってきていたのか。
殺されかけて泣かれて、付き纏われて。
普通じゃない精神状態の黒須さんにあてられて、多分僕も病んでいたのかのかもしれない。
でもどうしてか、あるいはそうだからか、天使さんのその言葉で安心した。
ひとりで抱えきれないものを少しだけ天使さんが寄り添ってくれた気がした。
「ありがとう、ございます……」
「えっ?! どうしたの本部くん?! 泣いてる?! 大丈夫?」
「……はい」
情けない。
あまりにも急に色々な事が変わり過ぎて、起き過ぎて。
どうかしていたのだろう。
千佳や真乃香さんにまで危害が加えられる可能性を視野に入れるような事態を想定している時点でどうかしてた。
いや、実際可能性はなくはない。
……頭の中がぐちゃぐちゃだ。
まともな思考が出来ていない。
今だって、天使さんに背中を
「……いや、本当にすみません」
「大丈夫?」
心配そうに僕の眼を見る天使さん。
泣いてるところなんて見られて恥ずかしい。
天使さんに渡されたハンカチで涙を拭いた。
ほんのりの香る甘い香りが心地良い。
「大丈夫です。……ありがとうございます」
疲れた顔から急に泣き出したのだから。
全くもって、恥ずかしい。
「あたし、なにかあったら相談に乗るからね?」
「ありがとうございます」
「うん」
天使さんは優しい。
無理に聞いてきたりしない。
それが有難い。
「よし、とりあえず今日は節約度外視でタコライスを作ります」
「なんかよくわかんないけどお師匠が元気になって良かった」
「天使さんのお陰です」
「えへへ。そ、そうかな? てか、タコライスって何?」
「タコライスはですね、タコスのライス版で沖縄料理なんですが〜」
天使さんとただ料理の話をしているだけ。
それだけだけど、楽しい。
黒須さんの事は、後でまた考えよう。
とりあえずそれでいいと思えた。
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