第32話 結婚……結婚……結婚……
「お邪魔しまぁ〜す」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します……」
「ただいま〜」
「くまちゃんおかえりなさい」
ぞろぞろと見明さん宅に入っていく僕ら。
「てんしちゃん!」
「美心ちゃん!」
女児と抱き合う天使さん。
微笑ましい絵画だなぁ。
きっとこの光景を見たらみんな争いなんてしなくなるんだろうなぁ。
「けーちゃん!」
美心さんは僕を見つけてしまい駆け寄ってくる。
その刹那、切なそうな表情をした天使さんの顔を見逃さなかった。
「けーちゃん! だいすき!」
「あはは……ありがとう」
駆け寄り僕のお腹辺りに顔を擦り寄せる美心さん。
助けてと願いを込めて僕は拳銃を向けられたかのように両手を上げる。
「本部、自首する気はないか?」
「……ないです。というかむしろ助けて下さいよ」
「……お師匠は歳下が好みなんだね……」
「いや天使さん、そんな事はないんですよ?」
料理を教えてもらってる相手がロリコンで自分は犯罪者から料理を教わってたと勘違いして悲しい顔するのやめてね?
ロリコンじゃないから。いやほんとに。
「けーちゃんは美心のこと、きらい?」
「いや、そんな事はないですよ」
八方塞がりだ。
クラスメイトたちから白い目で見られ、女児からは寂しそうに瞳を潤ませる。
なにをどう答えても詰む。
生憎と女児の直球をいなせるコミュ力は持っていない。
「そ、そうだ〜。桃原くん、クッキー持ってきたんですよね? とりあえずみんなで食べてから勉強会しませんか?」
桃原宅は比較的見明さん宅と近かった為、僕と桃原は先に桃原宅に寄ってから合流したのである。
こんな時の為に桃原のクッキーを当てにするのは申し訳ないが、クラスメイトから逮捕者が出るよりは
「私、紅茶をお持ちしましたので、桃原さんのクッキーと一緒に召し上がりましょう」
「黒須さんまじナイス!」
天使さんも紅茶とクッキーが食べられるからかにっこり笑顔が戻った。
そうしてとりあえず見明さんの部屋に入り落ち着いた。
……下手したらお縄になるところだったぜ……
その後はみんなでクッキーを摘みながら見明さんが美心さんにあ〜んして食べさせたりとほっこりタイム。
「そろそろ勉強しよっか」
「そうですね。今日の本題ですし」
「美心、自分の部屋で遊んでてくれ。ウチらは今から勉強しないといけないんだ」
「……うん」
しょぼくれた背中で見明さん部屋を後にする美心さん。心なしか胸が痛い。
お兄さん・お姉さんがたくさん来たと思ったら1人だけ除け者にされているのだ。
僕は基本ぼっちだから独りに慣れているが、小学一年生の美心さんには辛いだろう。
「本部くん、ここ教えてほしいくて……ボクにはちょっとここがわかんなくて」
「そこはこの公式で」
「本部くん! あたしもここわかんないんだけどどうしたらいい?」
「あー……数学ムリ。死ぬ」
「見明さん。ここの計算が間違っているだけですので頑張りましょう」
天使さん・見明さん・桃原の3人は数学で
僕は幸い数学は割と得意な為、黒須さんと2人体制で3人を教える流れとなった。
黒須さんはやはり勉強ができる。
教えに無駄がなく的確でわかりやすい。
黒髪ロングは伊達じゃない。
「…………じーーー…………」
背後から感じる視線。
恐怖感が這い上がってくる事はない。
ただ、構ってほしいという圧をひしひしと背中に感じる。
「…………みらいのだんなさまが、かまってくれない…………」
「本部くん、結婚する約束とかしたの? の? ねぇ?」
「いえそのような事は……」
なんだろう。天使さんの目が
だから僕は犯罪者じゃないです。
それでも僕はやってない。
「見明さん。妹さんは本部さんの
見明さんに「美心さんを僕に下さい」とか言ったら「指詰めろ」とか言われそうだな……
怖いなぁ。
「み、美心ちゃん。旦那様はなるべく歳が近い人の方がいいと美羽お姉ちゃんは思うなぁ」
「やだ。けーちゃんがいい」
駄々を捏ねる美心さん。
そんな美心さんに近寄って話しかけたのは黒須さんだった。
「美心さん。美心さんが立派なお姉さんになった頃には本部さんは立派なおじさんになっているのです。それでも愛せますか?もしかしたら未来の本部さんは暴力ばかり振るう男になっているかもしれません。あるいはぶくぶくと太り仕事をせずに美心さんにばかり働かせるかもしれません」
……あの、黒須さん。僕のそんな最悪な未来の話するのやめてください……
せめて立派な専業主夫になるんです僕は。
「そ、そうだよ美心ちゃん。結婚は難しいんだよきっと。だから今のうち同級生と仲良くなってる方が良いよきっと」
天使さんナイスフォロー。
……おい桃原。小声で「本部くん、モテるね」とか言わなくていいんだよ。
耳元で言われてちょっとドキッとしたじゃないか。
「じゃあ、しゅみれーしょん、する!」
美心さんはそう言って僕の手を引っ張り、そしておままごとをするのであった。
み、みんな……見てないで助けてくれよ……
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