第31話 新妻。

「けーちゃん。きょうもおしごとおつかれさま」

「ああ。ありがとう美心さん」

「きょうのごはんはカレーよ」

「そうか。それは楽しみだ」


 僕は今、見明さん宅でなぜか見明さんの妹・美心さんとおままごとをしている。


「あなた、りびんぐですわってて」

「ああ」


 一学期中間テストを控えた学生である僕。

 そもそもはテスト勉強したいから教えてほしいと言ってきたのは使なのだが、僕は今、美心さんとおままごとをしているのである。


 配役は新妻・美心さん、夫・僕という割り振り。


 そして見明さんの部屋では静かに見明さん・天使さん・黒須さん・桃原という美女4人(桃原は可愛いので問題ない)が勉強している。


「さぁあなた、どおぞめしあがれ」


 幼女の新妻スマイルで手渡されたおままごとセットのカレーのようなおもちゃを僕は笑顔で口に運んだ。



 ☆☆☆



 テスト。

 それは普通の学生が聞けば大抵は嫌な顔をする定期的な学生イベント。


「どうしよ本部くん。ボク、お菓子作りばっかでまともに勉強なんてしてないよ」

「うん。勉強しようか、桃原くん」


 5月半ばの中間テストに控えてゴールデンウィーク中も勉強はしていた。

 天使さんとのピクニックや見明さんに料理を教えたりはしていてもそこは専業主夫。

 効率よく家事と従姉妹・妹の面倒を見つつ勉強もしなければならない。

 主夫道とはそれだけけわしく長い道のりなのである。


「本部くん、一緒にテスト勉強しない?」

「いいですよ」


 桃原にはお菓子作りを教えてもらっているし、勉強を教えるくらいは問題ない。借りはきっちりと返さなくては。


「お、お師匠……あたしにも勉強教えて……」

「天使さんもやばいんですか?」

「うんうんうんっ」

「本部、お前勉強できるのか? ウチにも教えてくれ」

「見明さんもですか」

「バイトばっかでちょーやばい」


 あらよあらよといつの間にか教える対象が3人へと増えた。

 てか桃原はともかく、天使さんと見明さんは友達多いんだから1人くらい勉強できる友達もいるんじゃないか?


 まあ、まだ高校生活始まって最初のテストという事もあり、クラスの中の成績優秀者はわからない。

 何人かは授業中でも「この人頭良いな」と思う人物はいるが、周知の事実ではないだろう。


「んじゃ今日ウチでやんないか?」

「そういえばここ数日見明っちゃん家に行ってなかったな〜。美心ちゃんに会える」


 僕と桃原そっちのけで勉強会の段取りが進んでいく……

 僕以外の人、それもクラスのトップカースト2人が追加の勉強会に桃原はあたふたしている。

 桃原、残念だが僕は逃がさないよ。

 だって君は理科は勉強できるんだから。


 てか僕も男1人で勉強会とか気まづくて無理。

 僕の為に道連れとなってくれ。


「天使さん、見明さん、私もその勉強会、参加していいですか?」


 2人ではしゃぐ天使さんたちの前に現れた黒須さん。

 落ち着いた表情で参加を申し出ているが、黒須さんが勉強会に参加を?

 僕が見る限り黒須さんはクラスの中でも勉強できる人枠。

 勉強会に加入なんてしなくても問題なく点を取れると思うのだが……


「黒須さん勉強出来そうだしいいんじゃない? どう? 本部くん」

「私もクラスの副委員長として、もっと皆さんと仲良くなれればと思いまして」


 僕の疑問を見透かしたかのようにやんわりと自らのフォローを入れる黒須さん。

 まあ、委員長の天使さんと書記の僕。

 クラス委員という共通点から申し出なのかもしれない。


 普段はあまり人を寄せ付けないオーラを醸し出しているが、何かしらの繋がりが欲しいらしい。


「ではお願いします。黒須さん」

「こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げてきた黒須さんに僕は少しだけまた何かを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る