第29話 困ります真乃香お嬢様。
ゴールデンウィークも終わり、今日からいつもの日常。
5月半ばかの中間テストの対策もばっちり。
朝日も眩しいいつもの朝である。
「真乃香さん、もう朝ですよ」
「う〜ん。あと5時間だけ……」
「寝すぎですよ」
「…………すぴ〜…………」
だらしない格好で眠りこける真乃香さん。
完全にまだゴールデンウィークモードだな。
仕方なく僕は深呼吸をして真乃香さんの耳元まで近付いた。
「こらっ!! また遅刻か!!」
「ひゃいっ!! すみません部長ぉぉぉお!!」
飛び起きて土下座をする真乃香さん。
はだけた肩からブラ紐が垂れ落ちた。
社畜にはこれが一番効くんよな。朝は。
「真乃香さん、おはようございます」
「…………」
「早く顔洗ってきて下さい。朝ごはん冷めちゃいますよ」
「……王子様のキス……」
「残念ながら王子様は居ません」
まだ寝ぼけるか。
「
再び寝転がりウキウキしながらキスを待たれてもね。しませんよそんな事。
「舌入れてくれてもいいよ!」
「眠ってるはずの社畜さんなのに要求多いですね」
「お〜ね〜が〜い〜。会社行きたくないの〜。それでも健きゅんのキスがあればきっと私は頑張れる!」
「世間の皆さんはそれでも頑張ってますよ」
連休明けの真乃香さんは駄々っ子になるが、今回は一際面倒だ。
「じゃあハグ! ハグでもいいから!」
「しませんよ」
真乃香さんとのハグ。
それ即ち巨乳による窒息死である。
中途半端に身内な分、男の夢とも言える死に方とはいえ困る。
僕は立ち上がって再び真乃香さんに起きるように催促する。
「早く起きて下さい」
「い〜や〜だぁぁ」
美心さんのように純粋なのであれば言いくるめるのは簡単だ。
しかし真乃香さんを騙して言いくるめるのは一苦労。
「起きて下さい。真乃香お嬢様」
僕は女の子座りで駄々を捏ねる真乃香さんに手を差し出して立ち上がるよう促す。
他人相手にこんな事はしないが、真乃香さんを会社に行かせる為にはこんな事もしないといけない。
これも家事なのである。
専業主夫は辛いぜ。
「健きゅん……しゅき」
「まの姉、イチャイチャするのはいいけど早くしないとガチで遅刻するよ〜」
朝食を食べ終えた千佳が制服姿で通り過ぎっていった。
準備できてるなら手伝ってくれてもよくないですか妹よ。
「……ってもうこんな時間じゃん!!」
「いやだから起きてって言ってるじゃないですか」
僕の手を取って立ち上がって慌ただしく支度を始める真乃香さん。
顔を洗ってスーツを着て、朝食を掻き込み喉を詰まらせオレンジジュースで押し込む。
追い込まれた時の社畜は尋常ではない速さで物事を処理していく。
「行ってきまぁす!」
バタバタと玄関を出た真乃香さん。
しかし息を切らせて引き返してきた。
「健きゅん成分!」「ぐはっ」
何事かと待機していたらタックルにも似たハグという不意打ちに圧迫された。
「うへへ〜健きゅん成分じゃぁぁ」
「は、はなし……て」
熱い抱擁からの解放の刹那、頬にキスをした挙句真乃香さんは元気に手を振って会社に向かっていった。
「…………疲れた…………」
度が過ぎているスキンシップ。
親戚とはいえ保護者。
あしらうのも大変だ。
……鎮まれ。煩悩に囚われるな……
そう言い聞かせて僕も学校へと向かった。
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