第28話 おまわりさんこいつです。
「そろそろ良い感じか?」
「そうですね。お米も炊けてますし」
ほかほかの白米は艶やかで甘みと弾力がありそうだ。
炊きたてご飯はそのまま摘み食いとか僕はよくするが、人様のお家なので我慢。
……お腹空いた。
「では炊きたてのお米を
「せっかくのほかほかなのに?」
信じられない……という顔を露骨にする見明さん。
やめてください僕にそんなゴミを見るような目を向けないで下さいそんな性癖はありませんマジでやめて。
「今回はサラサラ雑炊にします」
「……洗ったらなるのか?」
「はい。炊きたての白米をそのまま雑炊でももちろん美味しいですが、水で濯いで表面のデンプンを落とす事によってさらさらとした舌触りの雑炊となります」
「デンプン……」
「タピオカとかでお馴染みのデンプンですね。あっさり食べれますしカロリーが減るのです」
「お前最高だな!」
変わり身早いな……
まあ、これも料理研究家の方の動画見て知った知識だけど。
「なるべくお米の粒を潰してしまわないように優しく洗って下さい」
「おけまる」
水気を切った白米を鍋に入れてその上にとろけるチーズで完成。
「腹減った〜」
「あとは美心さんが気に入るかですね」
「さっそく食べるか」
「では僕はもう帰りますね」
「ちょっとくらい食べてけよ〜」
「いやでも」
晩御飯の支度とかあるし、てかそもそも見明宅で見明さんとなんの話を僕はしたらいいんだよ……
「けーちゃんもいっしょ?」
再びリビングから顔を覗かせるあざとい仕草の美心さん。「……行っちゃうの?」みたい寂しそうな顔をしないでくれよ……
一緒に遊んだりとかもしてないのになんで僕はすでに
「……少しだけですよ」
美心さんの瞳に負けて僕は言われるがままリビングのテーブルへ向かった。
見明さんが料理をよそい、美心さんがニコニコしながら左右に揺れながら椅子に座っている。
見明さんも準備を終えて席に着いてのお食事。
「「頂きます」」「いただきます」
3人で手を合わせてスプーンに握る。
だが僕と見明さんは美心さんの反応が気になり美心さんの様子を伺った。
「おいしー!」
華やかな笑顔を向けるロリっ子美心さん。
尊いですなぁ。
「そっかそっか〜美味しいか〜」
見明さんもめっさ笑顔だな。
てかデレデレしてる。学校では絶対こんな顔しないって顔。
しかし僕は観ていた。
緑の物体を巧妙に避けているのを。
ま、簡単にはいかないか。
「もぐもぐ……もぐもぐ…………ん」
笑顔で食べていた美心さん。
だが避けきれなかったピーマンに当たり顔を歪めた。
幼児の舌はこれほどまでに敏感だったのかと改めて思った。
自分の頃を思い返してみてもそんな記憶はほとんどない。
ましてや今こうして自分で食べてみてもピーマンの苦味は感じない。
「にがい〜」
「美心、好き嫌いしちゃダメだろ?」
「…………」
一気にしょぼくれた顔をする美心さん。
なんだか罪悪感すら感じる。
出会ってまだ1時間程度の仲とはいえ、幼児のしょぼくれた顔は心に来るものがある。
「美心さん」
「……」
「美心さんは熊子お姉ちゃんの事は好きですか?」
「……すき」
見明さんが「何言い出すんだお前」みたい顔をするが僕は構わず話を続ける。
「もしも美心さんが熊子お姉ちゃんみたいになりたいのでしたら、たくさんお野菜を食べた方が良いですよ」
「……なんで?」
「ピーマンは苦いですよね」
「……うん」
「ピーマンにはビタミンCという栄養がたくさん入っています。熊子お姉ちゃんが可愛くて美人なのも、ピーマンを食べているからです」
「っな!!」
見明さんうるさいです。
今僕は幼女を騙して言いくるめている最中なんですから静かにしてて下さいよ。
「くまちゃん、そうなの?」
「え、あ、う、うん。そうだぞ? お姉ちゃんはピーマン大好きだぞ? うん」
「大好きな熊子お姉ちゃんが美味しくなくて体に悪いものを大好きな美心さんに食べさせたりはしません。だから、苦くてもこわくないですよ」
そもそも味覚・嗅覚は毒物などを判別する為に敏感だ。
幼少期の頃はその選別がより
苦い物や辛い物を子供が嫌う原理は単純に自分の身を守ろうとしているのである。
「……ほんと?」
「はい。だから、熊子お姉ちゃんみたいに可愛くて美人になりたかったら、たくさんお野菜を食べましょうね」
「……うん。がんばる!」
子供に嘘は付きたくない。
小さい頃の大人や歳上からの言葉はいつまでも記憶に残る事がある。
だから、嘘は付かずに向き合わないといけない。
「それに、カッコイイ大人は苦い物を美味しく食べるんですよ。美心さんがピーマンを美味しく食べられるようになったら、その時はもう立派な『お姉さん』です」
「……おねえさん」
いやまあ大人でも好き嫌い激しい人はいるけども。
僕個人の意見については嘘は付いてない。
という事で嘘は吹き込んでない。うん。
「だからこのご飯を全部食べたら、美心さんはお姉さんです」
「おねえさんになる!」
そう言って頑張って食べ始める美心さん。
そんな美心さんにほっこりした見明さんが美心さんの頭を撫でた。
嘘は付かず相手を騙す。
これを教えてくれたのは直人さんである。
「ごちそうさまでした」
「美心お姉さん、頑張りましたね」
「うん!」
美心さんの食べ終わった口元を拭く見明さん。
そんな姉妹の姿を見てほっこりした。
☆☆☆
「見明さんご馳走様でした」
すっかり遅くなってしまったが、僕も自宅に帰らなければならない。
「その、なんだ。こっちこそ……ありがとな」
姉妹愛を見られたからか頬を赤らめて礼を言ってきた見明さん。
家族とのやりとりとか反応とか見られるのってなんか小っ恥ずかしいですもんね。
わかりますその気持ち。
「けーちゃん、かえっちゃうの?」
「はい。僕もお家に帰らないといけませんから」
「またおうちくる?」
「そうですね。また来ますよ」
僕はしゃがんで美心さんと目線を合わせて微笑んだ。
すると美心さんは小指を出した。
「やくそく」
「はい」
小さな小指に僕も指を絡めて指切りをした。
捻くれているらしい僕でも、子供との約束を破ったりはしない。
「けーちゃんだいすき!」
「うぉっ!!」
指切りを終えて立ち上がった僕に抱き着いてきた美心さんに驚く。
「わたし、けーちゃんとけっこんする〜」
……僕が言うのもなんだが、どうしてここまで好かれてるんだ……
てか美心さんの後ろにいる見明さんが悪魔の如き形相で僕を睨み付けてきてる……
こわい。
「……20年後に同じをセリフを聞けたら嬉しいかなぁ。うん」
10年後って言おうとしたけどそれでも未成年だった。
まあ、20年も経てば流石に僕の事なんて綺麗さっぱり忘れてるだろう……きっと。
そうして僕は元気に手を振る美心さんと悪魔の形相のままの見明さんを背に家路に着いた。
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