第27話 ロリコンじゃないです。

「お邪魔します」


 買い物を終えて見明宅へ。

 僕も僕で家に帰って夕飯の支度をしないといけないのでなるべくスピーディーに教えて終わりたい。


「くまちゃんおかえり」

「ただいま〜美心みこ

「その人は、くまちゃんのかれし?」

「ちげーよ。料理を教えてくれるクラスメイト」

「本部健と言います。お邪魔します」

「もとぶ、たける……じゃあけーちゃん!」


 ……このロリっ子、初対面で悪意なくあだ名付けるとかなんなんだ?惚れそうだぞこんちくしょう。


 本部モブというあだ名しかなかった僕の黒歴史ファイルがロリっ子によって少しだけ華やかになった。

 もしこの直後にトラックに轢かれても悔いなく死ねる気がする。

 それほど僕は美心さんのコミュ力に感動した。


「すまんな本部。この間主人公が名付けをするシーンかなんか見たらしくあだ名を付けちまうんだ」

「……素敵なあだ名をありがとう」

「目じりに涙ってお前どした? 病んでんのか?」

「けーちゃんだいじょぶ?」


 美心さんが僕の手を握って心配そうに顔を覗く。

 久々に純粋な優しさに触れると泣くのだと知った15の春。


「……大丈夫です。見明さん、料理を作りましょう」


 美心さんの為に、頑張って教えよう。



 ☆☆☆



「で、何を教えてくれるんだ?」

「ミネストローネです」


 家でもちょくちょく作っているのだが、アレンジとか楽だしお米を突っ込んで雑炊にもできるし便利だ。

 手を加え直してトマト煮とかもいけるし。


「見明さんは家事にバイトにと忙しいでしょうし、アレンジしやすくて1品だけでも満足できる内容にします」

「それマジ助かる」


 エプロンを付けてやる気満々の見明さん。

 ……エプロン、クマちゃんなんだな。

 ギャップあるな。美心さんが選んでくれたんだろうか。


「ミネストローネと言っても今回は雑炊にアレンジします」

「んじゃまず米だな」


 手際よく米を研ぐ見明さん。

 普段からそこそこ料理をしてはいるのだろう。

 それに1ヶ月でバイトでも戦力となっているらしい見明さんは手際がいい。


「野菜は1口大が理想ですが、美心さんの口でも食べやすいくらいがいいので、グリンピースくらい小さいと良いですね」

「ぶった斬るのは得意だぜ?」

「それは頼もしいです」


 ……包丁片手にドヤ顔は止めてもらっていいですか。怖いです流石に。


 今回入れる美心さんの苦手な食べ物はピーマン。

 見明さんは景品で当たったという圧力鍋があるのでクタクタに煮込んで苦味を紛らわせる作戦である。

 それでいて苦味となる栄養も溶け込むので無駄にはならない。


「ミネストローネは具沢山スープなのでしなくてもいいですけど、時間がない時は野菜などの芯が固かったりするものは1度レンジで軽く熱を通してると楽です」

「楽したいからチンするわ」


 レンジで温めている間に買った鶏肉を切る。


「今回は安かったので鶏肉ですが、ウィンナーとかでも全然問題はないです。てか切らなくていい分ウィンナーとかの方が楽ですね」

「りょっ!」


 熱した鍋に野菜と鶏肉、トマト缶を入れる。


「いつもならニンニクとオリーブオイルで香りを付けてから野菜などを僕は入れますが、美心さんの事も考えて優しい味付けにしたいのでコンソメと塩、トマトだけで味を調えます」

「あいよ」


 入れた具材と調味料を煮込み、小皿にスープを掬い入れて味見をする見明さん。


「こんくらいでいいか?」


 僕も小皿を受け取り味見をした。

 塩でトマトの甘みも引き立っていて美味しい。

 普段は真乃香さんがお酒を飲む事もあって胡椒などでワイルドな味付けにするが美心さんの舌的にもこちらの方が良さそうだ。


「ばっちりです」

「うっし」

「後はしばし煮込むだけです」

「簡単だな」

「じっくり作りたい時などはトマトをそのまま入れて、トマトの水分だけて作ってみても美味しいですよ。濃厚で」

「なにそれマジ美味そーだな」


 リビングからキッチンをそわそわしながら覗く小さな影。


「もうすぐご飯できますからね」

「うん!」


 美心さんは嬉しそうに微笑んだ。

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