第26話 妹大好き熊子お姉ちゃん。

 天使さんとのピクニックを終えて次の日。

 いつものようにスーパーでのお買い物。

 なんなら学校に通う回数よりもスーパーに通っていると言っていいだろう。


「ピーマンとパプリカが安いな」


 あのあと、なんだかんだ天使さんの膝で僕は1時間くらい寝ていたらしい。

 居眠りでそこまで眠ってしまうとは情けない。

 自分の怠惰な生活で天使さんの膝枕を借りることになってしまった事に対して僕は謝った。


 天使さんはそれでも優しいのだろう。

 笑顔で「全然いいよ」と言ってくれた。

 しかし今度何かお詫びをせねばならないだろう。


「今日も鶏肉が安い。鶏肉は助かる」


 天使さんとの別れ際に「またふたりでどっか行きたいな」と言っていたが、片割れが飯とおやつ食べて挙句の果てに眠りこけるという醜態を晒したにも関わらずまた行きたいというのはなぜだろうか。


 サンドイッチにバター塗ってなかった事による失敗を悔いているからか?

 いやそこまで大きな問題ではない。

 まあ、弟子の料理を食べる、という試験的な意味合いが強いのかもしれない。


「トマト缶か……チキンとピーマン・パプリカのトマト煮込みもアリだな」


 まあ、僕自身は師匠だの弟子だのの件を容認してはいるが正式に弟子を取るなんて言ってないしな。

 教えてはいるが、天使さんが飽きたりしたのならそれで終わりの関係と言える。


「おう本部もとぶ

「お疲れ様です見明みあさん」


 幽霊も見慣れている霊能者さんがそこまで幽霊を怖がらないように、流石に僕も見明さんを見ても怖がらなくなっている。


「ゴールデンウィークもバイトは大変ですね」

「そ〜なんだよ。妹の世話もあるし大変でさぁ」


 切れ長で鋭い眼光に泣きぼくろ、長く艶やかな銀髪はバイトの為にまとめていて尚且つバイトの制服。

 学校では銀髪ギャルな見明さんも妹さんの話を僕に度々話してくる。


 その時の見明さんはただのシスコンに成り下がる。

 てかたまに妹さんとのツーショットの待ち受けを見せ付けてくる。

 どんだけ好きなんだよ。


「てか聞けよ本部〜」

「なんですか?」

美心みこがさぁ、好き嫌い激しくてさ〜」


 見明さんの妹、美心さんは小学1年生。

 まだまだ我儘な時期。

 好き嫌いは少なからずあるだろう。


「まあ、小さいうちは舌が敏感で苦いものとか苦手な子は多いですよね」

「そぅなんだよぉ〜」


 バイトそっちのけでぐにゃぐにゃになるの止めてもらっていいですかね。

 怒られますよ。そして僕も嫌な顔をされかねん。


「本部、お前料理得意だろ? なんか教えてくれないか?」

「子供向けは結構上級者な気がするんですが……」

「頼む!」

「……わかりました」


 小さい子相手の料理はあまり経験はない。

 小学校1年生の子供でも美味しく食べられる料理を僕は作れるだろうか。


「でも言っておきますけど、美心さんのお口に合う料理を作れるかは僕も保証できませんからね?」

「それでもいいから!」


 妹の為に、とかは狡いと思う。


「今日は昼勤でもうすぐ上がりだから、これからでもいいか? 急なんだけどさ」

「分かりました。店内うろうろしときますから、バイト終わったら声掛けてください」

「おう!」


 そうして見明さんは元気よく仕事へと戻っていった。

 妹の為の料理ができるから張り切っているのだろう。

 相当のシスコンだな。


「あ、そうだ」


 他にも買いたいものがあったと思い出して探しに行こうと歩き出す。


「っと! あ、すみません」

「あ、……いえ」

「ああ……えっと……黒須さん」

「こんにちは。本部さん」


 コーナーを曲がっての出会いがしらに黒須さんとぶつかりそうになった。

 一瞬名前が出てこなかったのは申し訳ない。


「失礼します」

「あ、はい」


 黒須さんはぺこりと頭を下げてそそくさと歩いていった。

 黒須さんもお買い物なのだろうか。

 その割には買い物カゴは持っていなかった。


「すまんも本部! 待たせた」

「思ったより早かったですね」


 どうやら本当にバイトが終わる時間帯だったらしい。

 黒のスキニーパンツに黒のパーカーとシンプルでラフな私服姿に新鮮味を感じつつ僕らは買い物を続けた。


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