第25話 ふたりだけのピクニック③

「……やばい……」


 あたしの太ももで無防備に寝息を立てている本部もとぶくん。

 急に名前を呼ぼれて見つめてくるし、告白されるのかと慌てて恥ずかしくてまじテンパった……


「……顔とかちょー熱いし。本部くんに真っ赤な顔とか見られてないかな?」


 眠そうだと気付いてとっさに抱き寄せて眠らせたからきっと今の顔は見られてないはず。

 てかそうあってほしい……

 勘違いとか恥ずかしすぎて死ねるマジで。


 いやまあ冷静に考えたらそんな事ないってわかるけどさ……


「……てかさらに冷静に考えたら、本部くんに膝枕してるというこの状況……」


 男の子に膝枕とかした事ない。

 されたのだって小さい時にママにしてもらったくらいで、まさかこんな事になるなんて……


「で、でもだいじょぶ。誰もいないし」


 ここにはあたしと本部くんだけ。

 その本部くんはあたしの太ももでお昼寝中。

 本部くんが起きたら何事もなかったかのようにやり過ごせば問題ない。はず……


「てか本部くん、『牛になっちゃう』とかちょっと可愛かった」


 普段は落ち着いてるし、あたしにも敬語だけど流石に眠いとちょっと子供っぽくなるのか。可愛いかよ。


「紅茶飲も」


 段々落ち着いてきた。よし。だいじょぶ。

 でも、もういい加減気付いてしまった。

 自分のこの気持ちに。

 気のせいだって思ってたけど、多分これはそうだ。


「……本部くんの寝顔、好きすぎる……」


 知り合ってまだ1ヶ月。

 だけど、たぶんこれはあたしの初恋だ。

 確証なんてなんもないんだけど。


「いや待って、果たして本部くんはほんとに寝てるのか問題」


 あたしはそっと本部くんのほっぺを指でつついてみる。

 とくに反応はない。うん、やっぱ寝てる。


「……頭撫でてみたり……」


 昔、ママの膝枕で昼寝してた時、よくこうされてた気がする。

 でもパパは死んで、ママは1人であたしを育ててくれて。

 その時からだろうか。

 あたしもママに甘えたりはしなくなった。


 でもママが頑張ってくれてるのは知ってたから我慢したまんま。

 お掃除とか手伝って、褒めてもらえただけも嬉しかった。


「そんなあたしが今や本部くんを膝枕して頭を撫でているというこの状況」


 成り行きでこうなってるし、なんなら自分の動揺が原因。

 本部くんはあたしの彼氏じゃない。

 友達、だと思うけど、本部くんがあたしの事を友達だと思ってくれてるかはわからない。


 あたしと本部くんは違う。

 それでも、本部くんの隣で本部くんの横顔を見てるのがあたしは好きだ。


「やばっ。また顔が熱くなってきた……」


 この顔を見られたくはないからもう少しだけ、あたしの傍で寝ててほしい。

 そう願ってあたしは本部くんの頭を撫でた。


 やわらかく風が吹いて桜の花びらが舞った。

 緩やかに踊る花びらはあたしの鼻先をかすめて静かに本部くんのほっぺに触れた。

 その花びらをあたしはそっと摘む。


「ほんとに、よく寝てる」


 この初恋は、しまっておこう。

 今のあたしではたぶんダメになってしまう。

 そんな気がする。

 なんでかは全然わかんない。


「でも……」


 あたしは本部くんのほっぺにキスをした。


「あたしだけのファーストキス」


 本部くんは知らない。

 あたしの初めてのキスが、眠ってる本部くんの頬だってことは知らない。


 膝枕からのキスで、かがんでやりづらかった事も、本部くんは知らない。

 あたしの真っ赤な顔も、本部くんが真剣に料理してる時の横顔が好きな事も知らない。


 知らなくていい。

 今は、傍に居させてくれたら、それでいい。

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