第22話 コスパ。
ゴールデンウィークを迎えての休み。
僕は家事に勉強とそこそこ忙しくしている中、それでも桃原から教わったフォンダンショコラを作っていた。
「なにやらいい匂いがする」
「クラスメイトから教えてもらったんだ。夕飯食べてからな」
「美味そ〜。ガトーショコラ?」
「フォンダンショコラ」
「とろってするやつ?」
「そうだ」
「おお〜
「ただまー」
真乃香さんも帰ってきて夕飯時。
完成した夕飯を火にかけて温める。
「
「帰ってきて早々に抱き着かないで下さいよ。早くメイク落としてきてください」
「あと5分待って〜健きゅん成分の補充が……」
「千佳ー、真乃香さん剥がして」
「うい〜」
「ああ……健きゅん成分がぁぁぁ」
火を使ってるんだから危ないと何度言っても聞かない従姉妹。
全く困ったものである。
「温めてるうちにインスタアップしとくか」
自分用のフォンダンショコラに切り込みを入れ、中のチョコを垂らして撮影。
普段は料理しか投稿していないが、これからはお菓子もちょくちょくやっていこうと思う。
「健きゅ」
「待て」
「わん」
背後から迫ってきた真乃香さんを止めて料理を持たせる。
仕事から帰ってきたばかりの保護者にウェイトレスの仕事をさせるのは大変心苦しい。
しかしこうもひっきりなしに抱き着かれてはこちらも困る。
「「「頂きます」」」
手を合わせて食べ始める2人を眺めながら僕も箸を付ける。
今日も問題ないクオリティである。
「旨みが沁みますなぁ」
「……まの姉がますますおっさん化していく……」
ビール片手に料理を次々に食べていく真乃香さん。
作り手としては食べっぷりが非常にいいので気にしていなかったが、確かに段々とおっさんぽくなっている気がする。
「まの姉、結婚相手とかいないの?」
「健きゅん、ちぃちゃんがお母さんみたいな事言ってくる〜」
「お母さん心配よ?」
「……中一に心配されるなんて」
「いいもん。健きゅんのお嫁さんになるから」
「それなら安心だね。あ、でもおにーちゃんには美羽さんいるからなぁ」
「誰よその女っ!! 私知らない!!」
「千佳、別に僕と天使さんはそういう仲じゃ決してないぞ」
千佳の遊びが酷すぎる……
見明さんもそうだが、僕が天使さんとそういう仲になれる訳がない。
どう考えても友達止まりだろうし、そもそもつり合ってない。
「た、健きゅん……私と結婚してくれるって言ったよね?」
「いつの話なんですかそれ」
「えっとね、私が小学校6年生の頃だから……えっと……」
「昔の話ですね完全に」
「その時のおにーちゃんって……4歳?」
「時効です」
「私は、あの時の言葉を噛み締めて生きてきたのに……」
そんな事を言った覚えは全くない。
言ったとしても、そもそも婚約にならないだろ。
4歳のショタの言葉を真に受けるなよ……
幼馴染あるあるみたいなノリのやつじゃん。
「健きゅん、私を捨てないで……初めては健きゅんって決めてるのぉぉぉ」
「はいはい落ち着いて下さい真乃香さん。フォンダンショコラありますよ」
「フォンダンショコラ!! 食べるっ!!」
泣きじゃくりながらもあっさりと料理を食べ終えた真乃香さんにフォンダンショコラを喰らわせる。
涙と鼻水を垂らしながら美味しそうにフォンダンショコラを食べているので今回のお菓子作りは成功と言えるだろう。
「私も食べよっと」
今回初めてお菓子作りに必要な物を自分で揃えてみたが、コスパはあまり良くない。
甘い物を摂取したいだけならそれこそ市販のチョコミントアイスを買い与える方が安いと言える。
「健きゅんおかわり!」
「まの姉、太るよ〜」
「大丈夫!!」
「……そうだった……全部胸に行く謎システムなんだった……」
今後はなるべくコスパも良いお菓子作りを模索するべきだろう。
まあ、桃原ほど熱心にお菓子作りをする訳ではないから急ぐ事もないのだが。
「あっ!! 私の分をよくもっ!!」
「美味い!」
「おにーちゃぁん! まの姉が私のフォンダンショコラ取ったぁぁぁ」
「真乃香さん」
「健きゅん、愛してる」
「すまん千佳」
「裏切ったな?!」
愉快な家族が喜ぶのなら、また作ろう。
今はとりあえず、これでいい。
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