第21話 もどかしい。
雑貨屋ひまわりからの帰り道。
天使さんがいた。
雑貨屋を出てすぐ側にいたから、たぶん陽向さんなのだろう。
ゆっくりでいいと言っていたのはなんなのか。
てかいつのまに連絡先交換してたんだ……
「あ、あの、本部くん……」
「だし巻き玉子、作るんじゃなかったんですか?」
「え、あ、うん……そうなんだけど……」
しょぼくれた顔をした天使さんは小さくなって立っている。
思っていたよりも、僕は天使さんに酷いことを言ってしまっていたのだと気付いた。
こんな顔をさせるつもりはなかったし、僕の言葉でこんな顔をするなんて思ってなかった。
「その、なんかごめんね」
痛々しく笑う天使さん。
たった1ヶ月くらいの仲でしかない。
そんな相手の顔を見て、どうしていいか分からなくなるとは思っていなかった。
どんな言葉を返したらいいのだろうか。
「……」
なんと言えばいい。
たぶん、僕の言いたい事は伝わらない。
住む世界が違うから。
だからすでにこうなっている。
「……天使さん」
「うん」
「……どうやら僕は、捻くれているらしい」
「…………ふふっ」
一瞬、固まった天使さんは笑った。
いや、笑われた。
「知ってる」
「そうか……」
「まあ、最近知ったばっかりだけど」
「……うん。僕もついさっき言われたばかり」
さっきまでの暗い空気は夕暮れに融けていた。
今はただ、ふたりして互いを見て笑ってるだけ。
たぶんきっと、僕は謝るべきなのだろう。
伝えられる事は伝えても伝わってなかった。
じゃあ何を謝るべきなのか。
「……誤解させてしまったのなら、すみません」
「うん。たぶんあたしもなんか誤解してるかもって思って、本部くんの事、考えた」
「そもそも……1人でいる方が気が楽で、集団でいるのが好きじゃなくて、だから懇親会みたいな場所は得意じゃない」
「うん」
話が噛み合ってるかわからなくなってきた。
伝えたい事を探すうちに埋もれてく。
直人さんが言ってた「青春」がこれなら、なんとももどかしい。
「だから、行きたくない理由はそれだけ、です」
「ごめんね。あたしはさ、こう……みんなで楽しい! みたいなとこあるし、
天使さんはまた僕に謝った。
それでも今度は少しだけ笑顔だった。
お互いに本質を理解なんてできないだろう。
僕と天使さんは違う。
でも、互いに認識くらいはできるらしい。
「……僕が言うのもなんですが、僕もいたら楽しいって思うのはずいぶんと物好きですね」
「そんなことないと思うんですけど〜」
「いやいや、
めまぐるしく僕の中でなにかが変わる。
なにが変わったのかはまだよくわからない。
「まあ、そんな物好きの天使さんはだし巻き玉子で困ってるんですよね。教えますよ」
「物好き認定は誠に不服なんですが確かに困ってる」
なんの合図もなしに赤焼けた道を2人で歩く。
全く困ったような顔をしていない天使さんの横顔を見てモヤモヤとした感覚は抜けていった。
「本部くん」
「なんですか?」
「今度ふたりだけでピクニック行かない? ミニ懇親会」
「前向きに検討する方向で善処します」
「それ絶対行かないやつじゃん!!」
たぶん、こういうところが僕は捻くれているんだろうなと今思った。
他人を見て自分を知る。
自分の身の回りの手の届く所だけを見てきたから今まで知らなかった。
「でもまあ、少人数という点はいいですね」
「でしょ! お互いにお弁当作って交換するの!」
「正露丸持参案件ですね」
「ちゃんと安全なお弁当作りますぅ〜」
「それなら楽しみですね」
「うん! 楽しみにしてて!!」
そう言って天使さんは満面の笑みを浮かべた。
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