第18話 鈍感。
高校生活にも慣れてきてもうすぐ1ヶ月。
今週末にはゴールデンウィークが始まる。
安息日が待ち遠しい。
「今日は鶏肉が安いな」
「あら本部さん、いらっしゃい」
「こんにちは」
ほぼ毎日スーパーで買い物をしている為か、精肉のおばちゃんなどから挨拶されるようになってきた。
男子高校生が主夫みたいなお買い物をしているのがおばちゃんたちには微笑ましく思えるらしい。
僕はモブぼっちではあるが、捻くれコミュ障ぼっちではない。
挨拶されれば返すし、目が合えば会釈くらいはできる。
「本部じゃん」
「あ、
見明さんも働き始めて1ヶ月ということもあり、慣れた手つきで仕事をこなしている。
見た目はちょっと怖いが姉御肌感が客のおじさんたちにはウケがいいらしい。
「今日は
「それはまあ天使さんにも予定があるでしょうし、ただの料理仲間という立ち位置ですし」
店頭の商品を前出ししながらも話を振ってくる見明さん。
個人的には行きつけの店に知り合いとかがいるとなんとなく行きづらいのが僕だが、ここのスーパーは安いし近い。
雑に接して嫌われると生活に支障が出るというのは避けたい。
専業主夫にとって、己の生活圏内の平穏を維持するのは常に精神力を使う。
僕ですらたまに近所の人と井戸端会議をしなければならないのだ。生きるのは大変である。
「てかさ、ホントに付き合ってないの?」
商品を並べる手を止めて僕に睨みつけるようにして見つめてくる見明さん。
ガン飛ばしてらっしゃいますか姉御……恐い。
いやまあたぶん、疑ってるだけなんだろうけどさ。
「天使さんとお付き合いとはないです。単純に料理教えてるだけの関係ですし」
「互いの家に出入りしてるのに?」
そういえば作った料理を友達にも見せてるって天使さん言ってたな。
僕の話も出してしまっているのだろうか……
それは困るな。
こっちは教室のすみっこで静かに暮らしたいのに。
「そもそも僕みたいな影の薄い奴が天使さんとお付き合いとか無いじゃないですか。釣り合わないですよ」
「……ふ〜ん。そっか」
なんか含みのある態度だな。
まあ言いたい事はわかる。
僕みたいなモブが天使さんはたら見たら仲良くしてるようにしか見えないし気に食わないと思う人もいるだろう。
己の立ち位置を理解してないと潰される。
出る杭は打たれる。それが学生世界の
それに言わせてもらえば、天使さんが僕に好意を抱いているはずもない。
僕だって人並みに人間である。
鈍感じゃない。
ドラマとか映画とか観ててもなぜ気付かないのかと焦れったくなるし、なんなら人の悪意や敵意には敏感だ。
だからこそ大人しくしていたかったが、天使さんに料理を教える羽目になった。
けど教えることに対する不満はない。
問題はそれ以外の話なのである。
「ま、なんかあったら相談くらい乗ってやるよ」
「……ありがとうございます」
なんかよくわかんないけど、結局良い人なんだよな。
と言っても連絡先とか知らないし、相談するような事にならないとは思う。
社交辞令だとも思うし、気にしなくてもいいだろう。
その後はお会計をしてスーパーを出た。
献立を改めて考えていると、なにか違和感に気付いた。
誰かに見られているような違和感。
最近この違和感を感じるようになった。
ほんとに急に最近、である。
「…………なんなんだ? …………」
僕はスマホで録画を開始して尻ポケットに入れ直した。
レンズが上に出るようにして普通に歩く。
ブレは酷いが、背後を操作無しで撮影することが出来る。
直人さんが教わった逆盗撮方法である。
しかしなぜ僕が……
よくわからないまま家路に着いた。
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