第16話 都市伝説、クラスライン。

「今日は天使さんとは料理作らなかったから、インスタ更新しとくか」


 食事を終えて僕は部屋でなんとなくスマホを触る。


 天使さんと料理をするようになり始めてからの最近はインスタの更新が遅れがちになってしまっていた。


「まあ、隠すことじゃないんだけど、でもやっぱりなぁ……」


 一緒に料理を作った日にインスタを上げるとなると、必然的に天使さんにバレてしまう。なにせ一緒に作った料理である。


 1度くらいなら同じでも偶然で済むかもしれないのだが、仕上がりやお皿までも同じだと流石にバレてしまう。


 そのためインスタを更新出来る日は一緒に作っていない日に限られる。又は違う時間帯の料理である。


「と言ってもただの趣味だし、義務感もないんだけど」


 習慣であり、料理を作る意識やモチベーションの維持の為の投稿である。

 最近は少しづつフォロワーが増えていることもあり、モチベーションはゲーム感覚で上がっていく。


「コメントくれる人も少しだけ増えてるんだよな。でもなんて返していいかわかんない……」


 投稿内容は料理の写真と材料一覧、簡単な調理手順だけ。

 交流がしたいわけではないし、オリジナルレシピをアピールしたいわけでもない。


「『【黒酢監視官】とても美味しそうですね』」


【黒酢監視官】さんはわりかし初期からのフォロワーさん。

 いつも一言くれるので覚えているが、なぜ【黒酢監視官】という名前なのかはわからない。


 本名とは別の名前のラジオのお便りやペンネームなどで変わった名前にしている人はなぜ? といつも思う。

 それで言うなら僕も【背景モブ太郎】なわけだが、これは完全な自虐ネタであると言い訳しておこう。


「そういえば他にも変な名前の人いたよな」


【たわし】さんとか【ハムカツ太郎】さんとか個性的で面白い。

 ネット越しの向こうで知らない人が僕の投稿を見てコメントしてたり。


 普段は人とあまり関わらない僕が、知らない人たちに何かを発信できる世の中。

 ま、その中に天使さんもいるわけだが。


「……高校生活、こうなるとは思ってなかったな」


 中学と同じで何事もなく過ごすんだと思っていた。

 学校が終わって誰とも遊ばず部活もせず、スーパーでお買い物して家事と勉強するだけ。


 それでいいと思ってた。


 たった1度、弁当を教室で食べてしまって今に至る。


「天使さん、今日も楽しそうだな」


 唐突な天使さんからのライン。

 作った料理と共に写る天使さんの画像が送られてきた。

 まだ教え始めて日が浅いのに、目に見えて上達していく天使さんは見ていて楽しい。

 育成ゲームはきっとこんな感じなのだろうか。


 ☆miu amatuka☆

『本部くん!!』


 天使さんが貼った画像でほっこりしているとさらにラインが来た。


 ☆miu amatuka☆

『そいえば本部くんもゴールデンウィークのクラス親睦会、来るよねっ?! ( ー̀ωー́ )✧』


 さも当然かのような確認なのだが、僕はその話を一切知らない。

 どうやらクラスの上位カーストのみなさんが企画した「おなクラだし仲良くしようぜっ!! な会」らしい。


 本部健

『いや、行きませんけど』


 そもそも聞いてないし。

 てか絶対行きたくない……

 現状、僕が話せる人なんて天使さんと桃原だけ。

 僕の同じ属性の桃原が事前に誘われているとも思えないし、誘われていたとしてノリよく行くとは思えない。


 まずもってその話が上がっているらしいクラスライングループに僕は参加していない。

 ので行く必要がない。


 ☆miu amatuka☆

『え……なんで?』


 いやなんでと言われましても……ねぇ。

 正直、あんまり親睦を深める気はない。

 どうせ行っても空気であり、気まづいしすみっこで黙々と料理を食べているだけだろう。


 気を使うのは疲れる。

 そしてそんな僕に天使さんは絶対声を掛けてきて余計にいたたまれない状況になる。

 天使さんの優しさで僕は死ぬのだ。


 本部健

『予定入ってまして』


 スーパーでお買い物をするという予定が入ってます。ので行けませんとは言えないし、多分それは予定とは認められないだろう。


 だから僕は小さな嘘を付く。

 それで誰かが傷付くわけじゃない。

 傷付かない嘘は言ってもいい。


 僕がこれまで生きてきて覚えた人生観である。


 ☆miu amatuka☆

『がーん(|| ゚Д゚) ……一緒に料理できると思ってたのに(_ - -)_ バタッ』


 本部健

『すみません』


 親睦会ってみんなで料理とかするものなのか?

 よくわからない。

 けど、どのみち行かないし興味はない。


 本部健

『僕は行けませんが、天使さんは楽しんで来てください』


 ☆miu amatuka☆

『……そか。分かった。じゃあ本部くんに当日飯テロ爆弾写メ送りまくるね!!』


 本部健

『それはお腹が空くので止めて頂けると助かります』


 どんな腹いせなんだ……

 料理だけに。


 しょうもない事で笑って、僕はスマホを置いてお風呂場に入った。

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