第12話 雑貨屋ひまわり①

「へぇ、こんなとこに本部くんの行きつけの雑貨屋があったんだね」


 ロールキャベツを作った次の日、あたしは待ちきれず本部くんに雑貨屋の案内を催促した。


 なぜかどうしてもペッパーミルが欲しい。

 ペッパーミルを使って自分で料理したい!

 あのゴリゴリ感がたまらんのですよええ。


「『雑貨屋 ひまわり』って言うんだね」

「ここの店長さんが物好きで歩き回っては色んな物を仕入れたりするんです。だから色んな物が売ってて」


 そう言って本部くんがドアを開けると鈴の音が軽やかに鳴った。

 ふんわりとお花の香りがした。


陽向ひなたさん、こんにちは」


 店に入ると女性店員さんがカウンターに座っていた。

 長い黒髪にぱっつん前髪。

 白い肌は瑞々しくて童顔。そして可愛い。

 小柄で同い年くらいかと見間違えそうだったけど、本部くんとの会話的に年上だよね。


「あら健くん、いらっしゃい。お、今日は彼女さん? も連れてきたんだね」

「か、彼女では……」


 そりゃ、本部くんが彼氏ならいつでも美味しい料理食べられるし、なんならもう胃袋掴まれちゃってるけど!

 ママが話してた事とか急に思い出しちゃってなんか顔熱いんだけどっ!! 恥ずい!


「残念ながら彼女ではないですね。どちらかと言えば弟子です」

「おやや、お弟子さん!」

「りょ、料理を教えてもらってるんです〜」

「そうなのね」


 そう言って微笑む女性店員さん。

 やばい。艶のある黒髪に照明が照らされて天使リングになってるのもあるけど、この女性店員さん可愛すぎる……

 天使てんしってほんとにいるんだなぁ。可愛い。


「この人はこの店の店長の雨宮陽向あまみや ひなたさん」

「店長の陽向です。よろしくね」

「あたしは天使美羽って言います。よろしくです」


 これはあかんですわ。

 陽向さん可愛い問題発生!

 女のあたしでも可愛いくて抱きしめたくなるんだけど?!


「陽向さん、てきとうに見てますね」

「なにかあったら呼んでね」

「はい」


 本部くんの声でどうにか現実世界に戻ってこれた。

 なんだろう。ちょー癒された。


「たしか……ペッパーミルはこの辺に」


 店内にはほんとに色んな物があった。

 あたしが欲しがっていた調理器具はもちろん、ぬいぐるみや置き物、使い方のわからない何か。


 個性的だったり謎な物まで様々だ。

 見ててわくわくする。


「ペッパーミル、ありましたよ天使さん」

「おお〜。何種類かあるね」


 電動式のやつと頭がネコの形してるやつ、それとお師匠と同じやつ。


「電動式って意外に安いんだね」

「そうですね。僕も電動式にしようか迷ってたんですよね」

「う〜ん……デザインだけで言えばぬこさんミル、安さなら電動式、でもやっぱり」


 あたしは結局お師匠と同じペッパーミルを手に取った。


「やっぱあのゴリゴリ感がいいんだよね〜」

「削る時は結構楽しいですけど、体育とかやった日の後とか地味に辛いですよ」


 たしかに本部くん家で使ってた時は楽しくてそこまで感じなかったけど、わりと力使うんだよね。


「だいじょぶ! 頑張るっ」


 あたしは本部くんに粗末な上腕二頭筋を見せつけた。

 オシャレは寒さとか暑さを我慢するのもオシャレ。

 これすなわち、苦行も料理なのである!


「ではとりあえず今日の目的は達成ですね」

「そだね。あっ!! この食器、「背景モブ太郎」さんが使ってたやつと同じだ!!」


 インスタに上げている料理皿のひとつ。

 料理によってお皿とか変えてるけど、結構どんな料理にでも違和感のないデザイン。それでいて可愛い。


「へ、へぇ……そうなんですね」

「意外に安い……どうしよ、これも買おうかな〜」

「ま、まあ、天使さんの好きなようにお買い物するといいかと思いますよ」

「そだねっ! 買っちゃおう!!」


 そうしてお皿も手に取り、あたしはニコニコで陽向さんが待機しているカウンターに向かった。


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