第11話 天使家の日常。

「早くママ帰って来ないかな〜」


 やっとお家に着いてあたしは家事を始めた。


「ルンバ君、ここは君に任せたっ!」


 空腹値は限界を超えている。

 ママは1人で食べてていいって言うけど、やっぱり2人で食べたい。


「ママからラインだ〜。今日は定時ね、了解っと」


 それならもうすぐ帰ってくる。

 洗濯機を回して食事の準備。


「このランチョンマット、可愛いんだよね〜」


 好きなインスタグラマー「背景モブ太郎」さんに感化されて買ってしまったランチョンマット。


 あたしが中学2年の頃まではママはよく定時退社して帰ってきてくれた。

 けど、あたしが大きくなってきたこともあってママは出世して大きな仕事をするようになった。


 小さかったあたしを心配して会社から散々昇格しないかと言われていたけど、今ではもう立派な役職らしい。


「ま、お陰で一緒に食事する時間が減ったんだけどね」


 ルンバ君がお勤めを終えたらしくホームに帰っていく。

 ママより退社が早いなルンバ君。


「ただいま〜美羽」

「おかえり〜ママ」

「あーお腹空いた」

「すぐご飯準備するね」

「ありがとう」


 ロールキャベツを温め直してご飯をよそう。

 本部くんと作ったロールキャベツをやっと食べられる。もうお腹がぺこぺこ。


「はい、どうぞ」

「美味しそう」


 あたしは小皿にロールキャベツを盛ってパパの前に置いた。


「パパ、今日は友達とロールキャベツ作ったから、パパも食べてね」


 あたしはパパに手を合わせてママとご飯を食べ始めた。


「ロールキャベツ、懐かしいわ」

「懐かしい?」

「ママがパパに初めて作った料理がロールキャベツだったのよ」

「なにそれ初耳っ」


 パパはママより料理上手だったらしい。

 そんなパパの仕事が忙しくなって料理を作らなくなって、当時付き合っていたママがパパの為に初めて作ったのがロールキャベツだったらしい。


「それでパパね、私の作ったロールキャベツ食べてボロボロ泣いちゃって」

「なぜにっ?!」

「仕事で追い込まれてたらしくて、久しぶりに人が作った料理食べて美味しいって泣いたのよね」

「パパ可愛いかよっ」

「責任感の強い人だったからね。自分で自分を追い込んじゃったんでしょうね」


 あたしの知らないパパの話。

 もしかしたら、今日という日にロールキャベツを作らなかったらこの話を聞けたのはもっと先だったかもしれない。


 あるいは聞けなかったかもしれない。

 料理を通じて、パパとママの想い出を知れた。

 本部くんにまたお礼を言わなくちゃ。


「美羽は初めてロールキャベツ作ったのよね?」

「そうだよ。ま、友達に教えてもらって作ったけど」

「この前言ってた子?」

「そそ。あたしのお師匠」

「ほんと良い子ね。ロールキャベツってしっかり包まないと煮崩れしちゃったりするのよね。ちゃんとしてるわね」

「あたしのお師匠だからね」

「ふふっ。そうね」


 なぜかドヤ顔をしてしまったけど問題なし。

 だって本部くんの料理美味しいし。


「美羽はもう胃袋掴まれちゃってるわね〜」

「そうかもしれない」

「美味しかったわ」

「まだあるけどお代わりする?」

「もうお腹いっぱい」

「じゃあ明日はロールキャベツアレンジしようかな。お師匠が味変ソースも教えてくれたし」

「明日のお楽しみね」

「うん! 明日も楽しみにしててね」


 そう言ってふたりで笑った。

 何気ない日常。

 それでも幸せだ。

 明日もまた頑張ろう。


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