第10話 ロールキャベツ②
「だいぶ粘り気が出てきましたね。もう大丈夫です」
「ひぃ〜手が冷たい〜」
冷えた挽肉をゴム手袋越しとはいえ捏ねていたのだ。
手先が冷え切っていて当然だろう。寒そうに。
「おりゃ」
「冷たっ!」
「にししっ」
ゴム手袋を脱いだ天使さんが僕の腕を掴んで寒さをお
楽しそうに笑う天使さんを怒る気にもなれなかったし、寒さでびっくりこそしたが嫌悪感はない。
「遊んでないで次いきますよ」
「はーい」
「肉ダネができたら次はいよいよ巻きます」
「1番大事なとこ!!」
「肉ダネをレモンみたいな形にします」
僕もゴム手袋を付けてだいたいの形を作って目安を見せた。
「ハンバーグみたいに平たくしないんだね」
「ロールキャベツはじっくり煮込んで火を通すので形重視でいいんです。煮込みハンバーグもありますが、ハンバーグは焼くことが多い料理ということもあって平たく作るのがほとんどなんです」
「なるほど〜形にも意味があるんだね」
律儀にメモを取る天使さん。
勉強熱心だから教えていても楽しい。
教えがいがある。
「ではキャベツを広げて肉ダネを置きます」
「はい」
「芯の部分から巻いていきます。この時の横のキャベツを折り畳みながらしっかりと巻いていきます」
「破れないようにもしないといけないから難しい……」
「巻けたらロールキャベツと縦方向、つまり並行になるように爪楊枝を刺してキャベツの葉を固定します」
キャベツの葉を縫い物のように刺し、爪楊枝の切っ先が顔を出すようにして見せた。
実際は並行じゃなくてもいい。
お高いハンバーガーみたいに中心がズレさえしなければいいパターンもあるが、今回は量が多くコンソメスープで煮込む為にどうしても
そのため鍋のスペースを効率よく活かすなら並行に刺して固定する方がいいのである。
「天使さん、だんだん要領良くなってきましたね」
「慣れた〜」
「流石やればできる子」
「お師匠、もっと褒めて!」
「偉いですはい」
「あ〜今ちょー雑だったし」
「あとは煮込んで完成です」
鍋に敷き詰めたロールキャベツに水、コンソメの素、塩・胡椒を適量入れてじっくりと煮込む。
案の定、胡椒は天使さんが再びウキウキで入れてくれました。
「意外と簡単だったんじゃないですか?」
「たしかに。あたしも次は1人でできそう」
「慣れたらチーズソースとかホワイトソースとかでアレンジしても楽しいですよ」
「なにそれ美味そ〜」
「今度また教えますよ」
「是非っ!!」
2人で話しながら洗い物を済ませて僕はトマトを取り出した。
「では僕は煮込んでいる間にカプレーゼを作ります」
「……あたしもトマト買っとけばよかった……」
「千佳はトマト嫌いなんですけど、なぜかカプレーゼだけは食べるんですよね」
「妹の健康を考える良いお兄ちゃんしてるじゃん」
「専業主夫ですからね」
トマトを輪切りにしてモッツァレラチーズ交互に添えて出来上がり。
楽でいいな。
「アボカドとかさらに加えても美味しいんですよね」
「ううぅ……お師匠、もう飯テロ話はやめて〜」
「コンソメスープのいい香りもしてますしね」
天使さんはお腹を抑えて半泣き状態である。
時間を考えれば仕方ないだろう。
「もう少しで出来上がりです。耐えて下さい」
「あたしは出来上がってもまださらに家まで歩かないといけないという苦行が……」
「最高のスパイスですね」
「お師匠が鬼畜すぎるしっ!」
天使さんは空腹を紛らわせる為か再びペッパーミルを手に取った。どんだけ気に入ったんだ……
「お師匠、これっていくらしたの?」
「行きつけの雑貨屋で購入したんですけど、たしか2500円ほどだったかと」
「もうちょい高いかと思った」
「1000円くらいのものから4000円くらいのものもありましたね。電動ミルもありますし」
ピン切りで色々あるが、手に取って気に入ったものがこのペッパーミルだった。
「あんまり調理器具をたくさん集める趣味はないのですが、胡椒はよく使う調味料ですし、僕もちょっと憧れてたので」
「わかる〜。テンション上がるもん。いいなぁ。あたしも買おうかな」
新しく買った文房具とかでも、その時は勉強が少しだけ楽しく感じた。
文字を書くこと自体は結局一緒だけど、せっかくなら楽しい方がいい。
「お師匠の行きつけの雑貨屋、今度あたしも連れてって」
「いいですよ」
「約束ね」
「はい。あ、もうそろそろロールキャベツもいい感じですね」
「待ってましたぁ!! ロールキャベツっ!!」
出来上がったロールキャベツをタッパーに詰めて天使さんに手渡した。
「盛り付ける時にはしっかり爪楊枝を抜いて下さいね」
「了解っ!」
「ではお疲れ様でした」
「今日もありがとね、本部くん」
「いえいえ」
そうしてニッコニコで天使さんは帰っていった。
これでまた天使さんのレパートリーが1つ増えたのなら教えた甲斐があったというものだ。
「おにーちゃん、楽しそうだったね〜」
したり顔でリビングから覗いてきた千佳。
もう顔だけで鬱陶しいがこれもある意味いつもの事だ。
「料理は楽しくするものだからな」
「ふ〜ん」
まだ何か言いたげな千佳だったが、そのまま去っていった。
なんなんだほんと……
まあいいか。
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