第9話 ロールキャベツ①

「お邪魔しまぁ〜す」

「おにーちゃんおかえり。あ、お客さん?」

「あ、うん。ロールキャベツ作るついでに教える事になって」

「お師匠の弟子の天使美羽です」

「あらあらどうも〜。愚兄の妹の千佳です。どうぞ天使さんっ」


 妹よ、なぜそんな対応なんだ?

 微笑ましそうに僕を見るな。


「いやぁ実はお師匠のキッチンてどんななのか気になってたんだよね〜」

「べつに面白いものなんてなにも無いですよ?」


 とりあえず買い物袋をキッチンの台に置き、学校鞄などの荷物は僕の部屋に置いた。


「てか男子の家に入るのって初めてかも!」

「そういえば僕も女性の家に入ったのは初めてでしたよ」

「お互いお初ですな〜」


 手を洗い終えて僕は腰巻のエプロンを付けた。

 天使さんには予備のエプロンを貸し出してキッチンに立った。


「調味料たくさんあるね」

「あると便利ですからね。市販のソースとかペーストとかは楽に使えて便利だったりしますけど、味が濃かったりしますし」

「わかるわ〜。安いけど胡椒辛すぎ1回しか使ってないやつとかあるもん」


 今回は天使さんの食材も使ってまとめての料理の為、少々量が多い。

 手早くいこう。


「では始めましょうか」

「はいっ!」

「ではまずキャベツを根元からちぎって水洗いです」

「いえっさー!!」


 洗ったキャベツの葉を軽く水気を切ってレンジで熱を通す。


「キャベツの芯は食べづらいですが今回は栄養面を考えて切りません。お好みで切る・切らないはどうぞ」

「栄養大事」


 天使さんがレンジに掛けている間にまな板を取り出して冷蔵庫の残りの人参を取り出した。


「ちょっと彩りが欲しいので今回は余ってた人参を使います。ピーマンとかパプリカとかでも彩りは十分果たせるのでアレンジしてください」

「可愛いのは大事である!」


 人参のみじん切りを天使さんに任せてみた。


「おお〜お師匠の包丁めっさ切りやすいっ!」

「まあ、手入れはしてますから」


 熱したキャベツを取り出して冷ましている間にボールの中に挽肉を用意しておく。

 巻くには面積の足りないキャベツたちは後日の炒め物にでも使おう。


「できた〜」

「では次は刻んだ人参を挽肉の入ったボールへ」

「お師匠、裾直してあげる」

「ありがとうございます」


 いつの間にかズレていた裾をまくり直してくれた天使さん。

 細い指が肌に当たったりしてくすぐったい。


「挽肉と人参、あとはパン粉を大さじ1、塩・胡椒、牛乳大さじ2くらいで」

「お師匠、胡椒やりたいっ!!」

「どうぞ」

「おお〜!! なにこれちよー楽しいっ!!」


 天使さんにペッパーミルを渡すと天使さんはゴリゴリと胡椒を削り入れてはしゃいでいる。


「上のツマミで粗さを調整できます。今回は細挽きにしましょうか」

「さっきよりちっさくなった!!」

「天使さん、もう大丈夫です」

「おっけ〜」


 胡椒を入れ終えて「ふぅ〜」とやりきった感満載の天使さんは清々しい表情で額を拭った。


 なんだろう。

 天使さんが料理してるだけの動画とかあっても需要ありそうだな。すごく微笑ましい。ほっこりする。


「次はコネコネして下さい」


 僕は薄手のゴム手袋を渡してねるようにうながした。


「いひゃあーーー!!」


 ぐにゃりとねちっこい音と共に悲鳴を上げる天使さんを見てこっそり笑ってしまった。

 大丈夫、笑ったのはバレてない。


「どしたの大丈夫?! おにーちゃんなんかしたの?!」

「なんにもしてないよ」

「ち、千佳ちゃんごめんね。こねこねしてたら変な声出ちゃった」

「なんだ〜。てっきりおにーちゃんが美羽さんにえっちな事でもしたのかと思ったよ」

「千佳さんや、110片手に微笑むのやめて下さいお願いします」

「大丈夫だから! うん。とりあえずお師匠を通報しないであげてっ!!」


 あとワンタッチで通報じゃないかよ。

 僕はそれでもやってない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る