第8話 スーパーでのお買い物。

 無事に学級委員書記にさせられてしまった後の放課後。

 僕はスーパーへと向かった。


「春キャベツいいな。お、トマトも安いな。むむ、挽肉も安い」


 献立を決めてスーパーにはあまり行くことは基本的にはない。

 リクエストなどがあった場合は別だが、基本的には安い食材を探してその中でメニューを決めていく。


 真乃香さんの財政管理はあまり良くない。

 家計簿を付けているのも僕だし、毎月掛かった費用を真乃香さんに提示してその都度管理していく。


「……税金も上がってく世の中、高校生とはいえ考えなくてはいかんのよなぁ……」

「お師匠、どしたのそんな暗い顔して〜」

「びっくりした……天使さんか」

「お師匠もお買い物なんだね〜」

「専業主夫の基本業務ですからね」

「お師匠も大変ですな〜」


 天使さんも夕飯の買い物らしく、ギャルギャルしい制服の着こなしとはイメージの合わない店の籠を握っている。


「なんか安いのあった?」

「春キャベツとトマト、それと挽肉を確保しました」

「春キャベツ〜いいね」


 天使さんは春キャベツを使った料理を想像しているのか「……美味しそう……」と呟いている。


「お師匠は献立決まったの?」

「いや、まだ決めてなくて。でも、春キャベツと挽肉でロールキャベツにでもしようかな〜と」

「ロールキャベツっ!!」


 眼を輝かせている天使さん。

 この子の眼の中にはLEDライトとか入っているのではないかとたまに思う。

 モブには眩しすぎる。


「いいなぁ〜あたしも作ってみたいけど難しそうなんだよね〜」

「そこまで難しくないですよ?」

「形とか崩れそうじゃない?」

爪楊枝つまようじを使えば煮崩れしにくいですし」

「その手があったか!!」


 ころころと表情の変わる天使さんは見ていて飽きない。


「お、天使てんしちゃんじゃん〜。隣は本部もとぶ?」


 振り返るとスーパーの店員の姿の見明熊子がいた。


「おお〜見明っちゃん! そいえば昨日からバイトしてる言ってたね」

「そーなんだよ。天使ちゃんたちはなんだ? 放課後デートか?」


 見明さんがイタズラを思い付いたような無邪気な笑みを浮かべて茶々ちゃちゃを入れてきた。

 そういうのやめていただけると有難いのですが。

 いじめに発展しかねないので……主に僕が。


「違うよ〜。お買い物しに来たらお師匠とばったり」

「そうか。ウチはてっきり昨日のラインで「本部くんのオムレツがすっごく美味しくて!!」ってひたすら話してたから付き合いだしたのかと」

「ちょっ!! 見明っちゃん! なんか見明っちゃん経由すると恥ずかしくなるからやめてよー」


 2人のイチャイチャを前に僕は空気となった。

 見明さんは天使さんの友達である。

 そっちはそっちでどうにかしてくれ。

 僕にはなにもできん。


 弱肉強食の世界において、背景モブである僕は非力なのだ。


「じゃ、私は仕事に戻るわ〜。デート楽しんで〜」

「もう! ……見明っちゃんはすぐからかうんだから」

「天使さん、卵も安いですよ」

「え? あ、うん……卵ね。お、確かに安い」


 卵は生活必需品と言っても過言ではない。

 卵さえあれば大抵のメニューを作る事ができたりする。


 たまに妹と真乃香さんを連れてソロ攻略したりもするレベルで大事なのである。

 あろうことかチラシの卵の価格情報を見落としていたらしい。


「今日は結構お買い物してしまいました」

「だね〜。あたしもめっさ買っちゃったし〜」

「お買い得商品を買いすぎてはお財布的には優しくないんでしょうけどね」

「それある〜」


 買い物からの流れで夕暮れ時の帰り道を2人で歩く。


「お師匠は結局ロールキャベツ作るの?」

「はい。もう完全にロールキャベツのお腹なもので」

「あたしもそうだよ〜。作ったことないから作れるかわかんないけど」


 僕の話を聞いて感化されたらしい。

 作れるかわからないけど作ってみたいというのは大事な気持ちである。


 しかしそれでも作るのが不安らしい天使さんに要点を口頭で説明しながら歩く。


「…………ごめん! わっかんない!!」

「……さいですか……」


 それほど手の込んだ料理ではないが、それは料理慣れしている僕の主観に過ぎないのかもしれない。

 とくに初めてする料理などは怖いものだ。


 ハンバーグが生焼けじゃないか? とか初めての揚げ物で火事になったりしないかとか。


 そう考えれば、天使さんが多少なりとも不安な気持ちになるのも仕方ないのかもしれない。

 ましてや天使さんの親御さんは帰りが遅いらしいし。


「では、僕の家で作りますか? 具材はあるわけですし、そこまで遠くないですし」

「え?! いいの?! お師匠!!」

「え、あ、はい」

「お願いしますっ!! お師匠!!」


 めっさ食い気味に喜ばれた……

 どんだけロールキャベツが食べたかったのだろうか。

 まあしかし、一応は僕の弟子? だし仕方ない。

 僕が天使さんのロールキャベツ愛を芽生えさせてしまったようなものなのだ。


 最低限の責任は取らなければならないだろう。


「んじゃ! レッツお師匠宅へ!!」


 天使さん、楽しそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る