第6話 抱き着き魔の従姉妹。
「……おはよ〜……」
「おはよう。千佳」
日曜の朝から僕は腰巻きのエプロンを付けてキッチンで朝食を作っていた。
朝と夜の食事を作るのは僕の日課。
若干はだけているパジャマ姿の千佳は顔を洗ってテーブルでテレビを見ている。
「よし。こんなもんか」
魚肉ソーセージの真ん中に縦の切り込みを入れ、その間に卵を落として焼いただけのシンプルな魚ニソ目玉焼き。
スープは昨日作った鶏肉と野菜たっぷりミネストローネ。
前菜にはアボカドとマグロの彩りサラダ。
「
「
ボサボサの栗色のボブに際どい(どこがとは言わない)キャミソールに下着姿というちょっとだらしない格好であろうことか思春期男子に朝から抱き着く真乃香さん。
早朝からの熱い抱擁をガン無視して僕はインスタに上げる用の写真を撮影して洗顔を促した。
「おお〜美味そ〜」
「真乃香さん、早く顔洗ってきて下さいって」
抱き着いたままマグロを摘み食いしようとすな。
「へ〜い」
僕と千佳の現在の保護者である真乃香さん。
血縁関係的には
親と言っても家事が壊滅的に出来ない。
なので基本的には僕はほとんどの家事をしている。
「……全く……」
真乃香さんは一人っ子だったらしく、僕と千佳を兄弟のように接してくる。
そうしてくれるのは有難いのだが、スキンシップがやたらと激しい。
暴力的で豊満な乳圧と抱擁で時折窒息しかける時がある。
主に酔っ払っているとはとくに多い。
最初はどぎまぎもしたが、もう慣れた……
「「頂きます!!」」
「頂きます」
3人で朝食。
これは真乃香さんが僕らを引き取ってからの基本的な決まりである。
「いや〜美味い! 健きゅん、ビールお願いっ」
「……まの姉、昨日もべろんべろんで帰ってきてよく朝から飲めるね」
「日曜の朝からアボカドとマグロをアテにお酒飲むのもいいもんだぜ〜ちぃちゃん」
「……1本だけですよ、真乃香さん」
「さっすが健きゅん、愛してるぜっ」
朝から眩しい笑顔でサムズアップしビールを開ける真乃香さん。
僕と千佳は裏で「ぐび香さん」と呼んでいる。
仕事は基本的に残業は当たり前、なまじ顔もスタイルも良く明るい真乃香さんはやたらと飲み会に誘われて帰って来るのは真夜中。
できる社畜も苦労しているのだろう。
ましてや養ってもらっている僕らはあまり強くは言えない。
引き取ってもらっただけでも有難い。
「まの姉って、全然太んないよね」
「そうだね〜。仕事で動き回ってるからかな〜」
「夜中に帰ってきて夜中にわたしのチョコミントアイスを食べても太ってないのがげせん」
「ごめんて〜ちぃちゃぁん」
「ま、まの姉……く、苦しい……」
千佳が真乃香さんの謝罪の抱擁で窒息死しそうになっているが、これも我が家の見慣れた光景である。
「ちぃちゃんのお陰で私もちょこみんとーになっちゃったぜ〜」
「く、苦しいぃ……乳が……乳が……」
中一であり絶壁に等しい千佳にとっての真乃香さんの胸は残念過ぎる程の凶器と言っていい。
朝っぱらから百合百合でほんわかですな。
「ぷは〜。ミネストローネが沁みますなぁ」
「まの姉、おっさんぽいよ」
「じゃ〜ちぃちゃんにセクハラしちゃうぞー」
真乃香さんの「おっさん像」どんなだよ……
まあ、営業職らしいし、色々あるんだろう。
可哀想に。
「いやまの姉、さっきのも十分にセクハラだから。性的暴力だから。乳圧で窒息しかけるのは家庭内暴力だからね?」
「ご馳走様でした」
2人のイチャイチャを他所に食器を片付けだす僕もはたから見たらクレイジーかもしれない。
しかしこれが我が家なのである。
「コメントがもう来てる」
僕がインスタをしているのは日常の食事を少しだけ彩る為に始めたものだ。
彩りを気にすれば必然的に栄養バランスも考えなくてはいけない。
べつに、レストランのシェフになりたいとか大層な夢があるわけじゃないから、あくまでも庶民の手の届く範囲の彩り。
それがコンセプトなのである。
コメント欄は「あたしも今度作ってみます( ー̀ωー́ )✧」「贅沢な朝食……美味しそ(*´﹃`*)」など複数のフォロワーさんからコメントが書かれていた。
「そういえば
本名ではやっていないらしく、一目見て「天使さんだ」とわかる人はいない。
僕自身は隠しているつもりはないが、初対面で見せられてしまい、以来打ち明けられていない。
なんとなくやりづらい。話すタイミングも逃してしまっている。
「まあ、そのうち話すタイミングも来るか」
ただ料理を教えるだけの関係なのだから。
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