第3話 卵料理①

「お師匠っ! へい! らっしゃい!!」

「……すみません間違えました」

「合ってる! 合ってるから!! ここあたしの家だからっ!!」


 高校生活始まって初めての休日。

 友達の家にも行った記憶がない僕は今、天使あまつかさんの家を訪れていた。


 そわそわしていた僕を出迎えた天使さんはまるで裸エプロンのような格好(ショートパンツとタンクトップだった)と黒縁メガネというラフな感じだった。


 ラフな格好にエプロンという事もあり天使さんの胸がやや強調されていてなんとなく目を逸らした。


「……あ、あの、これ」

「そんな気ぃ使わなくてもいいのに〜。ありがとね、本部くん」

「いえ」


 僕はとりあえず買ってきていたケーキを手渡した。

 千佳に他人の家に行く時の作法とかあるのか聞いたらスイーツでも持っていけと言われていたのでとりあえず買ったものである。


 スレ立てしたら高級寿司とか花束を渡すのがマナーだとか嘘を吹き込まれたのでねらーには今後マナーの類いは聞かないことにした。


「とりまリビングへどうぞ〜お師匠」

「あ、はい」


 落ち着かないままリビングまでを歩く。

 やんわりと香る天使さんの香りに現在の自分の状況を再確認して困惑した。


 ……帰りたい……


「お買い物しなくていいって言ってたけど、良かったの?」

「ああ、はい。問題ないです」


 冷蔵庫の中身とかは聞いていたし、そもそも今日は天使さんの調理の仕方や調理器具を見に来たようなものだ。


 簡単に済ませてテキトーにそれっぽい事言ってさっさと帰るに限る。

 こんな美少女と2人きりとか耐えられん。


「じゃ! さっそく始めますかお師匠っ!!」

「あ、はい」


 荷物を置いて僕は腰巻きのエプロンを付けてキッチンに入った。


「とりあえず、今日は天使あまつかさんにオムレツを作っていただきます」

「……オムレツ……」


 オムレツひとつでどの程度できるのかはわかる。

 と言っても僕はプロじゃないし、わかるのはそれなりに勉強してるのかって話だ。


 今の時代は簡単にプロの技とか動画で見れる時代だし、オムレツは火加減がとにかくめんどくさい。


「あ、あのぉ……お師匠」


 天使さんは自信なさげにスマホの画面を見せてきた。

 以前に作ったオムレツなのだろう。


「……うん。とりあえず目の前で作ってみて下さい」


 ……暗黒物質ダークマターになりかけのオムレツだった。


「が、頑張るますっ!!」


 両手の拳を握り締めて気合いを入れる天使さん。

 長い金髪をシュシュでポニーテールにして調理に取り掛かった。


「おりゃ! あ、てぃ! ……おりゃりゃぁぁ! さささっ! わわわやばっ?! とぅ!! …………できたぁ」


 額の汗を爽やかにぬぐう天使さん。

 やりきった感が清々しい。


 画像で見ていたよりもずいぶんとオムレツになっている。ちゃんと黄色い部分残ってるし。


「とりあえず実食してみましょうか」

「お願いします、お師匠」


 時刻はお昼過ぎ。

 人が料理をしているのを見るとやはりお腹は空いてしまうもの。


「…………」


 不安げな瞳で僕を見てくる天使さん。

 そんな「今にも捨てられそうな子犬」みたいな眼で見つめるのやめて下さい。


「……………………」


 どうしよう、普通だ。

 おおよそ普通の一般人が作るくらいの味。

 オムレツという定義とか考えるとアレだが、卵料理という幅で考えるなら食べられる。


 正直、この間の弁当のカリカリ目玉焼き見てて絶望的だと思っていたが、オムレツの方がまともと言える。


「美味しい」

「ほんとに?!」

「でもオムレツではない、ですかね……」

「ガーン……」

天使あまつかさん?! 燃え尽きないで下さい!」


 ああ……天使さんが、真っ白になっていく……


 しかしこれは仕方のない事。

 だって、食感とかオムレツじゃなくてだし巻き玉子みたいな肉厚感だもの。


「で、でも天使さん、大丈夫です。伸び代はありますから!!」

「…………ほ、ほんと?」


 目じりに涙を浮かべる程ですか天使さん……

 崩れ落ちているためか、際どい胸元から目を逸らしながらフォローを入れた。

 なんだろうか、罪悪感で死にたい。


「……つ、次は僕が作りますから、見てて下さい」


 言葉で説明は出来そうにない。

 だから、見て学ばせるしかない。


 ……一応、師匠らしいので。

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