第2話 アイス大好きチョコミン党の妹。

「……ふぅ……」


 僕のラインの「ともだち」枠に加わった「天使美羽」という文字を見て、その異質さに困惑していた。


 家族と天使さんを含めて3人目。


「おにーちゃーん〜」

「……どした? 千佳ちか

「わたしのとっておいたアイスがないんだけど?」

「アイスか。真乃香さんが酔っ払って食べてたな」

「………………」


 パジャマ姿でノックも無しに入ってきた妹の千佳は悲しみの果てに膝を付いた。

 ロリを体現するに相応しいはずの千佳の背中は人生に絶望した大人のそれであった。


「う……ううぅ……わたしの……チョコミントぉぉぉぉ……」


 僕の部屋の床を四つん這いの状態で悔しそうに叩く千佳。


「歯磨きしたら同じだろ。諦めろ。うん」

「ちょっとおにーちゃん!! それはチョコミン党として聞き捨てならないっ!!」


 どうでもよかったゆえに余計な事を言ってしまった。

 チョコミン党を自称する千佳にこの手の話をさせると長く有難いお説教をされるのをうっかり失念していた。


 僕は千佳に正座させられて長々といかにチョコミントが優れたスイーツであるかを語られる。


「はい……はい。すみませんでした千佳様」

「うむ」


 中一の妹に説教される兄に威厳なんて無いのだろうなぁと他人事のように思いながら反省の言葉を口にした。


「で、おにーちゃんは友達できたの? 高校で」

「……わからん」

「わからんてなにさ」

「ライン上には「ともだち」が1人増えた」

「なにそれ?」

「友達というよりは、弟子」

「さらに意味わからん」

「……だよな」


 事の経緯を説明し、ふむふむとうなずく千佳。


「クラスのギャルが弟子入りか〜。で、可愛いの? そのギャル」

「……可愛いんじゃ、ないか? 善し悪しはよく分からんけど」

「人間不信のおにーちゃんにはレベルが高いかもね〜」

「……レベルというか、生きてる次元が違う。同じ人間とは思えん」

「たぶんだけど、おにーちゃんが生きてる次元が違うものあるしギャップは凄いだろうね」

「ああ。全くだ」

「……そこは否定しようよお兄ちゃん……」


 そもそも真逆のポジションのモブ天使陽キャさんだ。

 どう接したらいいかわからんし、出来れば接したくない。


 クラスの中で今後自分がどんな目に遭うか想像もしたくない。

 接し方を間違えればいじめられるだろうし、間違えなくてもそうなる可能性がある。


 できる限り早く天使さんには料理の腕を上げてもらわなければいけない。


「……しかも、今度の休みにその人の家に行って料理の手解きをしなければならないという……」

「おにーちゃん、露骨に匂いとか嗅いじゃ駄目だよ?」

「……自分の兄を変態扱いするのやめてね?」


 多分、緊張し過ぎて匂いを嗅ぐどころじゃない。

 自分が「どんな調理器具があるかわからないから」となるべく簡単な方へ逃げようとしたらその間もなく「じゃあ次の休みにあたしの家に来て教えて!!」と笑顔で言われたのである。


 僕の逃げ道を速攻で塞いでくる天使さんの行動力が僕は怖い。

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