第6話 両親の話
翌日、私はキッチンから流れてくる甘い香りによって目を覚ます。
「…ん、何?この甘い匂い。」お菓子のような甘い香りに釣られて私は身体を起こす。そして隣に朝弥が居ないことに気がつく。
「もしかして…。」キッチンに朝弥が居るんじゃないかと思い私はキッチンへ向かう。
「あっ、おはようございます。ファナお姉さん。昨日はよく眠れた様で良かったです。朝ごはんにパンケーキ焼いてるので一緒に食べましょう。」なるほど、匂いの正体はパンケーキだったか。
「今日は僕が作ったパンケーキを食べながら僕の両親の話を聞いてください。」そうして朝弥は私の前にお皿に盛ったパンケーキを差し出しながら話し始めた。
「僕の両親はとても優しくて暖かい人で、時には厳しく、怒ったら凄く怖い人でした。」今のところこの子が捨てられる要素なんて一つも無い…よね。
「それで、ある日いつもは優しいくて元気いっぱいのお母さんが思い詰めた表情であまり元気がなさそうに見えたんだ。今でも僕は何でお母さんに元気がなかったのか分からないんだ…。」いつもは元気いっぱいな人が急に元気がなくなるなんて…きっと心に傷がつくような何かがあったんだ…。と私は直感的に思った。
「僕はお母さんに聞いたんだけど、お母さんは私は大丈夫よ。しか言わなくて何も教えてくれなかった。その日以来お父さんとお母さんはほとんど話さなくなって僕に対してもほとんど無関心になった。」
この状況で考えられるのは…浮気とかなのかな。
ふと、疑問が浮かんできた私は朝弥に一つ質問をする。「話の途中にごめんね。君の両親からの関心がほとんど無くなったって言ったよね。虐待…あぁ、両親からの暴力とかは無かったの?」
その質問に朝弥は少し考えながら「暴力とかは…なかったと思う。関心が無くなってきてたって言ったけど心の中では僕のこと気にしてたんじゃないかなって…。でもいつの日かお母さん達の喧嘩が絶えなくなってその矛先が僕に向きそうになったんだ。そんな時、お母さんが僕を抱えて家を出た。それで森の前に来て…。」ここで朝弥は1度息を整えた。「泣きながらごめんね、ごめんね…。こんな家に産んじゃってごめんね…。ってそう言って僕を置いて家の方に帰っていったんだ。僕は勝手に、捨てられたって思ってお母さんを追わなかったんだけど…もしかしたら違ったの…かな。」そう言いながら俯く朝弥の頭を私は撫でる。
「たぶんだよ。私の憶測でしかないんだけれど、君のお母さんは自分たちの喧嘩に君を巻き込まないようにしようとしたんだと思う。捨てたことに変わりはないかもしれないけど君を想っての事だと思うから…君のお母さんのことを恨んではいけないよ。…お父さんのことは分からないけどね。」涙目になりながら小さく何度も頷く朝弥を私はぎゅっと抱きしめ続けていた。
サヨナラを知りまた会える日を待つエルフの話 秦 結希 @yuzukikokoro
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