霊感ゼロのワシの奇妙な体験

散香 さんか

母を励ます声

母親がクモ膜下出血で生死をさ迷っていた時の話。

ワシは毎日病院に見舞いに行っていた。

面会時間をだいぶ過ぎたある日、そろそろ帰ろうと病棟を出た。

冬だったと思う。

それほど遅くない時間だが、あたりは真っ暗だった。

周辺には誰もいない。

まわりの建物の窓の明かりも消えている。

突然、かなり大きな音量で聞き覚えがある声が聞こえてきた。


「政子さん!!(母の名)しっかりしいや!頼むで!

 政子さん!!(母の名)しっかりしいや!頼むで!

 政子さん!!(母の名)しっかりしいや!頼むで!

 政子さん!!(母の名)しっかりしいや!頼むで!

 政子さん!!・・・(続く)」


叔母の声に似ているので、見舞いに来てたのかと

怪訝に思いながら、声の方向へ向かって歩いていく。


同じ内容の声がずっと繰り返されている。

あまりにもはっきり、大きく明瞭に聞こえてくるので不気味な印象は無い。

ある建物の階段の方向から聞こえてくる。

明かりはすべて消えているが近づくほどに声は大きくなる。

誰が叫んでいるのか突き止めてやる。

真っ暗な階段にたどり着くと、地下階から聞こえてくる。

手探りで階段を降り始めると突然声が止んだ。

-------------

数日後、母が亡くなったという連絡が入り病院に向かった。

案内された霊安室は、なんと先日の階段を下りた場所だった。

ここから声が聞こえていたのか。

霊感ゼロの鈍感力でも体験できた不思議な話である。



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霊感ゼロのワシの奇妙な体験 散香 さんか @nyuwa2000

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