46_戦ノ乙女
私が天誅についたその時、黒々しくドロドロとした自然力が北東より放出されるのを感じた。その中にわずかに見知った自然力があることを知覚する。
……これはあの子の
私は都市に
北東にある祠の近くまで来ると高度な水魔術によって作られた牢獄とも取れる建造物が目に入る。彼の自然力はその中だった。
刹那、地面に激震が走った。その源はその中だった。目を凝らすと薄っすらと中から
……時間がない
私は球体を覆うように配置された無数の檻を足場にして結界の頂点へと至る。
そして、右手を上げ、魔術を展開する
「火」最上級魔術〈
私の周囲に生成された無数の火弾が収束し、天上を覆うほどの剣へと形を変える。
「……ん」
…ズガッガガガガガン
その声と共にその剣を私は堅牢な檻に向かって突き刺した。結界と剣は一瞬、拮抗したかに見えたがその魔術で作られた何層にもわたる防壁は次々と音を立てて崩れ去った。
その魔術によって開いた大きな穴から私は飛び降りた。下にははっきりと暴走状態に至った彼の…大鳥の姿をした怪物が見えた。その獣を拘束するために私は、次なる魔術を行使する。
「無垢」最上級魔術〈
体から湧き出る自然力を手に集め、何十メートルにも及ぶ槍を形成。それを空中で構えると怪物の体目掛けて、振り抜いた。その槍は獣の肉体を容易に貫き、地面に深々と刺さる。その瞬間、溢れんばかりの光が衝撃となって結界の大穴から放出される。
その光の中少々遅れて、私は地面に降り立った。
怪物へと変貌した彼を見て私は言った。
「……久しぶり、ヨスガ」
しかし、彼に言葉は届かず、近づくと鋭い歯が無数に並んだ口を開き威嚇された。
「……あなたはいらないの、ヨスガを返して」
私はそう言い、深々と被っていたフードに手をかけた。そして、赤く染まった目を見開いた。
『魅惑の瞳:あらゆるものを一時的に魅了する』
瞬間、怪物はおとなしくなり、逆立っていた毛や翼もしゅんと艶やかなものになる。
「……ガガ、ギギ。お願い」
そして、私は首の付け根に宿る「一ツ眼の蛇」たちにそう命令を下した。
「ガガッ」
「ギギッ」
するとガガとギギは元気よく返事をして、大鳥の首へと伸びてゆくそこに齧り付いた。刹那、膨大な自然力がその子たちを通じて私に流れてきた。
……発散しないと
私は片膝立ちになると両手を地面と接地させる。その部分から地面に直接、自然力を流す。そうするとそこを中心に生命が芽生え、急成長を始める。
徐々にヨスガの大鳥化は解かれて行き、檻の中が緑でいっぱいになる頃には人の姿を取り戻していた。
結界は大穴を中心に瓦解していた。強度の限界を迎えたのか、檻そのものが霧のようになって大気に紛れてゆく。
……あとは召喚陣と魔獣と巨人の掃討か
私は段取りをつけると、その場から脱した。
その後は主戦場である北部戦線から振り分けられた騎士や傭兵が各都市へと帰還。存在した召喚陣、そして魔獣と巨人は駆逐された。それが四月二十九日の昼頃だ。
今回の戦で主要都市に齎された打撃は計り知れなかった。
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