22_談笑
ナオトと突発的にやった決闘のせいでかなりの時間のロスになった。部屋に帰っても誰もおらず、必死になって準備をし、なんとか一限目に滑り込んだ。
「ほわわ。全員いるな。今日から本格的に授業だ。魔術士は基礎の魔球生成、能力者は俺が見る。…
「今日は取り敢えず、個々の魔球の生成速度、個数…要は基礎能力を見ます。二十分を目安に開始する予定です。それまでに体を慣らしておいてください」
希先生は凛とした声色を響かせる。その後、修練場の使い方、魔術制限などの説明を先生が続けた。
快斗先生は終始眠たそうにしていた。僕の授業担当は快斗先生だ。きちんと授業をしてくれるか心配になった。
しかし、彼は特段悪い先生というわけでもない。良くも悪くも教師っぽくないのだ。面倒くさがりで口が少々悪く、歯に衣を着せぬ物言いをすることも多い。
今まで生徒の意見を取り入れながら、無難なところに妥協案で落ち着かせる先生が大半だった。しかし、快斗先生は生徒の意見の中に間違いを見つけると話を聞いた上で過程に目を向ける。言い方は悪いが的を射る先生にはここ数日で不満を持つ人、支持する人、ことに関心のない人に組全体が別れる様相を呈していた。
魔術士組はここでそのまま授業を受けるため、魔球を生成して自身の調子をみる生徒が散見される。
僕は暇潰しにナオト達と一緒にいる。快斗先生は「持ってくるものがある」と言って何処かに消えてしまっていた。
パチンッ
音に反応して視線を向ける。ナオトが指を鳴らすのと同時に右手を中心に煌々とした炎の球が形成させていた。
「ナオト、あなたねえ……そんなことする必要ないでしょ」
クロエも手ひらでいつの間にか水の玉を揺らめかせている。数日の言動を見るに、二人とも口には明言しないが既知の仲のようで実力も知り尽くしているのは明らかだった。
「そんなこと」とは多分、「指を鳴らす」スイッチのことだろう。
「こっちの方が格好いいだろ。ロマンがある」
「…一応聞くけれど、魔術にロマンを求めてどうするのよ」
『ロマンは大事だぞ』
突然ペトラが現れ、クロエに抗議する。
僕は二日程前にふとペトラのことが気になってナオトに「三段階目の妖精はみんなこんな感じなのか」と聞いた。すると彼は「他の妖精はもっときちんと、と言うよりは悟ったような奴が多い印象があるな」と話した。
その時も『今、遠回しにバカって言っただろ』と出てきたのだ。言いたいことは言うタイプなのだろう。
「……その心は」
もう聞かなくても答えをある程度予測できているからか。クロエは頭を抱え、呆れるような表情をする。
『面白いからだ!』
小さな手をクロエに突き出しながら、その場の誰もが予想したことをペトラは言い放った。ここ数日過ごして分かったことがある。この妖精は「面白いか」の一点を物事の判断に用いているということだ。
* * *
『ほんとに遅れてこなかったな、ヨスガ』
僕は蒼葉が起きた時にヨスガが訓練に言ったことを伝えたため、彼も事情を知っていた。しかし、日が昇っても一向に帰ってこないヨスガが気になり、落ち着かないようで部屋を行ったり来たりしていた。
「僕の言った通りだっただろう。彼も大人の端くれだ。いちいち君が手を焼くもの違うだろ」
とうに十五は過ぎているのだ。自分のことの責任くらい取れないと班員として心配になる。
『で、なんでユウはあいつらのところに行かないんだ』
クロエ、ナオト、ヨスガが談笑している方に蒼葉は首をやる。
「僕は…いい。あんまり魔術を見られたくないからな。こんなことを言うのも変だが、君とはキャラがかぶる」
『まあそりゃ、同じ水魔術使いだからか。四つしか属性がないんだからしょうがねえ…ない』
「違う、性格的にだよ。いいよ。気を使わなくて。大方、ヨスガの従者の位置付けだから仕方なくやっている感じだろ」
彼の言動には初日から気になっていた。ヨスガと話すときはかなり食ってかかるような口調で話すのだ。寝る前に騒がしく話している声が聞こえてくる。初めは彼の言動は気のせいかと思っていたが、日を追うにつれてヨスガと話している時が素であることがわかった。
『そうだ。まあ、そっちがいいんなら、こっちの方が楽だ』
「なら、そうしてくれ」
彼も大変だろう。意思を持って会話もできるのに人の不文律に従うことを半ば強制されるのだから。僕自身としては同じ部屋の中で話し方が時々変わるのは違和感を感じていた。胸の
『そういや朝、食事の準備してくれてありがとよ。人みたいに手があるわけじゃねえからな』
「彼も自分の友人の世話くらいして欲しいが…僕の手が空いてるときは声かけてくれ。ことによるが手は貸す」
僕は、ヨスガは悪い人ではないと思う。何かと手伝ってくれることも多い。だが、あの計画性のなさに振り回されるのは今後の不安材料になる。特別試験の件も踏まえると「ミイラ取りがミイラになる」と言うことが容易に想像できた。
彼は王国騎士の理想しか知らない。多分、子供がおとぎ話の英雄を見てそれになりたいという、彼の夢はそういうものに近い気がする。実際のアイツらはそんなに綺麗なものではない。
『その時になったら、頼む』
大きな欠伸をする蒼葉の首元に付けられている宝玉が音を立てて揺れ、光を反射してきらりと輝いた。
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