十二

 日はまた登って、人々がいつものように仕事をする。活気付く町の通りを、場違いに物騒な格好でライカは歩く。

 いつもの黒装束の上からストールを巻き、ゴーグルを額に乗せる。感染の危険性を抑えるための服に、細身のライフル。背嚢の中には散弾銃や弾丸、ナイフや先程倉庫から引っ張り出した爆薬ような危険物も混ざる。

 そんな彼女を町の人々は誰も気に留めない。

「なんで私が太陽と生活を合わせなくちゃならないんだろう」

 雑踏の中でライカはぼやく。

 有り体に言えば、寝過ごした。日は登り切って、彼女を責めるように雲間で光る。

 案の定、顔を出しに来た詰所の一階には殆ど誰も居ない。皆外回りか、二階に居るようだ。いつもの受付の男、ネイトだけがそこに居るが、目も合わせずに無断で隅の物置にある容器からランタンの油を拝借する。

 その途中、子供達の親の一人であるフロエが詰所に入るなり、受付でネイトの襟首を掴み上げた。漁や野良仕事で鍛えた野蛮な腕が、哀れな男を暴力的に締め上げる。その後ろにはうろたえるフロエの妻をはじめ、悪童たちの親兄弟らしきものが集まっている。

 彼らが何かをがなり立てている。うっすらと聞き取れたのは、帰らない子供達の事と、税金を取っておいて未だ成果を出さない兵隊への文句。

 昨日、彼の家を訪ねた時の態度とはまるで違う。手のひらをひっくり返したように必死なフロエの顔に、ライカはこの上無い嫌悪感を抱いた。

 ネイトと目が合った。助けを求める視線に対し、ライカは意地悪くそっぽを向く。

 誰かが本に書いていた。人が危険を避け、賢くあろうとする誘因の大部分は、『恐怖を知り、覚えておく事』にある。そういった感情を忘れたり、教えられずに育てば、誰に共感する事もない身勝手な大人が出来上がる。

 それでもあんな風に自分の子供のために怒ったり、泣いたり出来る親達が、世間ではまともな親と言われるのだろうか。彼女にはよく分からない。

「何を見ている。探すんならさっさと行け」

 フロエがこちらを睨み付ける。とばっちりを食らわないよう、目は合わさない方がいい。まるっきり獣と同じ扱い方だ。

「言われなくても」

 ライカは呟く。別に、彼女が探すのはあそこにたむろする連中の子息では無いが。

 そうして、群衆からの視線とすれ違いながら建物を出る。

 本当に、どうしようもない町だ。

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