第16話

「うわ、すごい激しいよ夜斗君。あれ?見てないね」


「うっせ…見れねぇよ、ツレの童貞卒業式なんざ…」



村雨と葵がコトに及ぶ部屋の隣にある、監視室

マジックミラーを応用した壁に貼りつき、二人の行為を見つめる漣

夜斗は持ち込んだ本を読みながら、なるべく音が聞こえないように意識を目に集中させる



「わかってる?私たちはいざというときに葵ちゃんを殺すためにここにいるんだよ?」


「そうならないと決め込んでんだよ。思い出させんな」



紫電病患者を殺すと普通に殺人に問われる

しかし、放電の危険が高まったやむを得ない場合のみは適用外となる

漣は提案を受けた者として、夜斗は夜勤をしている夜暮の代わりでここから監視をしているのだ



「あっほら、俗にいう背面座位っていうあれだよ。いやぁ生で見れるなんて…。あ、でもあの二人はナマだっけ?」


「言ってて悲しくなんねぇの?大人しく座ってろ」


「悲しくなるよ!何の罪で好きな人がセ○クスしてるのを隣の部屋から見なきゃいけないのさ!私だって村雨君としたいよ!心ゆくまでイかされたいよ!!!」



慟哭が密室にこだまする

耳を塞ぎながらも話は聞いていたらしい。というか聞こえてしまうほどの大音量だ

防音室でなければバレてしまっていただろう



「見なきゃいいだろ」


「そうもいかないよ。法律上私の子供になるんだから」



葵のわがままの詳細は、受精卵を漣に移植して子を産んでほしいというものだった

代わりに養育費は、生命保険から全額支給するから…ということで受けてしまったのだ



「今日から私もお母さんかぁとか呑気なこと言ってられないんだよ!?二十歳になったときなんて説明すればいいの!?」


「しなきゃいいだろ説明。あ、水羊羹食う?」


「食べる!ありがとう!!」



窓の向こうで、村雨の上に葵が乗っかっているのが見える

あえて目を向けることはしない夜斗だが、視界に入るのだから仕方がない



(…こうも興奮しない覗きが他にあるだろうか)


「で、夜斗君は子供いないの?」


「戸籍上はいない。が、今2週目か3週目だ」


「おめでたじゃん」


「…かもな。あんたも彼氏さっさと見つけて結婚しな。女手1つ、無理とは言わんが難易度は高いぞ」


「できたら苦労しないよ!!」


「25歳名誉女院長、か。俺が独り身だとしても嫌だな、こんなお転婆歳上」


「しまいにゃ殴るよ!?」



夜斗は事務的に記録を取る

細かく、何回した…とかそういったデータだ

夜斗…というより、夜暮にとってのこれはほとんど実験に近い

妊娠するのか?したとして紫電病はどうなるのか?といったところだ



(結末は、見てやる)



夜斗はこれから1週間、ここで様子を見守ることになる

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